DEAN FUJIOKAが語る初めてのJ-POPへの挑戦、1番価値のあるもの

―2枚目の冒頭を飾る「Teleportation」はバンドサウンドで、1枚目の打ち込みを中心とした楽曲と大きく雰囲気が変わります。どのように着想した楽曲なんでしょう。

いくつか切り口があるんですけど、1つはこの10年間、日本国内で活動をやってきたことが大きくて。例えば、「Echo」みたいに他の国にいるタイミングで構想からデモ作りまでやって日本でファイナライズしたものもあれば、他の国にいる時にシンプルなループを送ってもらって、それをアレンジ、組み立てて、メロディをのっけて送り返して、歌詞も他の国のホテル滞在してる時に書いたりとかって曲もあるんですけど、この10年は日本を軸に音楽活動やってきたなって理解でいるんですね。その中でJ-POPみたいなフォーマットの楽曲を作れない人なのかなって思われるのも癪だなって初めて思ったんですよね。

―この曲は、J-POPがフォーマットになっていると。

自分の中でJ-POPって縛りで作ったら、こういう曲が生まれますっていうのが「Teleportation」なんです。どうしてこのフォーマットを使おうかと思ったかというと、悲しい曲を作りたかったんですよ。で、悲しさにはミスマッチが必要だなと思ったんですね。例えば、もし曲調がスローバラードとか、マイナー調の曲だったら効果的ではなかった。こういうアップリフティングな感じのBPMとアレンジ、ホーン、ギターカッティングが入ったミスマッチでしか到達できない、ため息の表現っていうものがあるなと思って。最初のサビ頭の「あーあ。」って部分がタイトルでもいいかなと思ったぐらいだったんです。ため息をどうやって表現するかみたいな。いわゆるJ-POPっていう商業主義に則ったフォーマットを逆説的に使うのが1番ぐっとくるっていう判断のもと、こういう形になりました。

―最終的に、タイトルはどうして「Teleportation」になったんでしょう。

誰かを想う気持ちって、こういうことかな?と思ったんですよね。「君の心にテレポーテーション」っていうフレーズがあるんですけど、なにか想いがある時に届けたいわけですよね。でもそれが届かないエモさっていうか、切なさみたいなの。全部、逆説的な形で、届いたらいいなと思いながら過ごす淡い恋心みたいなものとか、もっと違った意味での愛みたいなもの、どれだけ願っても届かない、成立しない、ため息のエモさをどこまで深められるかみたいな。でも曲調は軽快ないわゆるポップス。いわゆるJ-POPの転調しまくったりするフォーマットでどうやって遊び尽くすか。ベストなパズルのはめ合わせ方が「Teleportation」っていう楽曲タイトルであり、歌詞であり、メロディー、アレンジメントもそうなんです。裏コンセプトで言うと、J-POPっていうカテゴリーがもし世の中に存在するんだとしたら、自分の中でのJ-POPですって総括した1曲ですね。

―DEANさんにとって、J-POPってどういう存在なんでしょう。

自分はどっちかって言うと、日本の歌謡曲が大好きな人間なので、J-POPっていうと不自然だなって思ってるくらいなんです。たまたま自分の場合は、日本じゃないところで生活とか仕事をしてきた時間が長かったので、意識してJ-POPの世界と接点を持つ必要もなかったんですけど、コロナで3年間ぐらいずっと日本にいたのは1つ大きなきっかけだったと思います。四季を通して2周以上分、日本にいたのが大人になってから初めてだったので。こういう社会で、こういう民族、国なんだってすごく思った。つい最近まで中華圏で長期の仕事をやっていたり、今後も海外のいろんな国に行く仕事があって、日本にずっといる機会多分もうないだろうなと思ったんですよね。そうなった時に、自分にとってのJ-POPの存在とか距離感が、これ以上近いことがもうないと思ったんですよね。またいつもの感じに戻るというか。改めて振り返ると、これだけお世話になって日本っていう国のJ-POPって産業の中で、1曲ぐらい自分なりのJ-POPがあってもいいんじゃないかなって自然と思ったんです。

―コロナがあったからこそ作れた曲でもある。

間違いないですね。コロナがなかったら絶対に作れていなかったと思います。そこまで日本の現代の社会に深く潜り込めなかったと思いますね。

―実際、J-POPというフォーマットをアウトプットすることで気付きはありましたか。

やっぱりBPMなんだなって思いましたね。あと、コード進行の定番を理解しながらどこまで崩すかの面白さ。「Teleportation」って、転調しまくってるんですよ。それも、楽じゃない転調っていうか。めちゃくちゃ直感と計算、理論を動員させないと成立しないような転調を3回ぐらいやっている。頭のサビとブリッチのところ、最後にまた転調する。その中で、メロディのボーカルレンジとか、他のバンドのフレーズとかを全部成立させて、ミックス含めて成立させるのが、からくりを作るみたいな面白さがあるんだなって感じましたね。

―構造の部分で、BPMと転調がJ-POPにおいての特色であると。

自分の理解ですけどね。観察していると、J-POPってコード進行がどんどん変わっていく。あとは展開のつなぎ目で転調していく。なんだったら、セクションの中でも転調したりする。メロディがどう動くか次第で、それを成立させるツボみたいなものがあるんだなと感じました。あとは、歌詞との絡みですよね。どの言葉の、どの長音の形が、どのメロディーの動きに合わせてハマるかの妙とか。自分としては、そういう意味で、ため息を表現するのがこの楽曲の作詞作曲の部分ではチャレンジで、面白かったですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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