ルシンダ・ウィリアムスが語る、ロックンロールの新境地とスプリングスティーンとの邂逅

ルシンダ・ウィリアムス(Photo by DANNY CLINCH)

 
トム・ペティのような曲に憧れていたというルシンダ・ウィリアムス(Lucinda Williams)は、気骨あるニューアルバムで『Stories from a Rock N Roll Heart』でその夢を叶えた。ただし、曲作りは「今までの中で最も苦労した」という。米ローリングストーン誌の最新インタビューを完全翻訳。


「水の中で暮らしたい」と思えるほど蒸し暑い9月のナッシュビル。苦しみから開放されてリラックスしたルシンダ・ウィリアムスが、レイ・ケネディのルーム・アンド・ボード・スタジオに備え付けのキッチンテーブルで、トミー・スティンソンとジェシー・マリンといったツアーの猛者たちに、ツアー中のエピソードを語っている。めったに聞けない裏話の多くは、内容の濃いルシンダの回顧録『Don’t Tell Anybody the Secrets I Told You』でも楽しめる。しかし、彼女の南部特有のゆったりとした口調で話されると、より魅力的なストーリーに聞こえる。

やがて、彼女のマネージャーも務める夫のトミー・オーバビーが姿を現し、コントロールルームで新曲「Jukebox」のボーカルをチェックするよう伝えた。彼らは、ロック色を明確に打ち出したニューアルバム『Stories from a Rock N Roll Heart』の仕上げに取り掛かっていた。「気に入ったわ」と彼女は満足げに微笑み、コンバースを履いた足でリズムを取った。

数カ月が経った2023年の春先、彼女はナッシュビルにある自宅のキッチンテーブルにいた。ニューアルバムに参加してくれたエンジェル・オルセン、マーゴ・プライス、ジェレミー・アイヴィ、バディ・ミラー、ザ・リプレイスメンツのトミー・スティンソンらに囲まれて、この日も嬉しそうにコーヒーを口に運んだ。それだけではない。「Rock N Roll Heart」と「New York Comeback」の2曲でコーラスに加わった、ブルース・スプリングスティーンと妻のパティ・スキャルファの顔もある。「New York Comeback」は、2023年1月に70歳になったルシンダが経験した忍耐と勝利の歌だ。2020年に彼女は脳卒中で病院に運ばれた。忍耐と勝利は、彼女が順調に回復する中で得た大切なメッセージだ。



曲作りの過程でいくつかのコードを弾いてみることはあっても、ルシンダがステージでギターを弾くことはない。でも彼女には歌がある。2023年2月に行われたアウトロー・カントリー・クルーズに乗船した彼女は、バンドをバックに従えて、静かな曲から迫力ある曲まで歌い上げた。ステージ上の彼女は、ルックスもサウンドもまるでロックシンガーのようだった。(彼女のロックの殿堂入りが検討されても決しておかしくはない。)

「センスがひとつ欠けていても、残りのセンスが磨かれる」とルシンダは言う。「だから私の場合は、ボーカルに専念できたのだと思う。誰にもあることよ」。

ルシンダはこれまでに、『Little Honey』や『Down Where the Spirit Meet the Bone』など数々のブルーズ・アルバムを出してきた。ところが今回の『Stories from a Rock N Roll Heart』は、ハウリン・ウルフというよりはパティ・スミスに近い作品だ。これまでにルシンダが暮らした、ルイジアナ、アーカンサス、テキサス、そして現在のテネシーといった彼女の愛する南部の枠を超え、かつて彼女が「ホーム」と呼んだニューヨークシティの気骨とエネルギーに溢れている。

「トム・ペティ風のロックンロールが書きたかった」とルシンダは証言する。2017年に彼女は、トム・ペティの生前最後のコンサートでオープニングアクトを務めた。「彼のような作品を書くのが夢だった。でも私にはとても難しかった。ギターを手に取ると、バラードが浮かんでくる。私のフォーク時代の影響だと思う」。

ニューヨークのバーでプレイするバンドのようなサウンドを得るために、ルシンダは、ロウアー・イースト・サイドの顔と言えるジェシー・マリンや、長年のツアーメンバーであるギタリストのトラヴィス・スティーヴンズにサポートを依頼した。また、1998年のヒット・アルバム『Car Wheels on a Gravel Road』でプロデューサーを務めたレイ・ケネディと再び組み、コンパクトかつ新鮮な、お祭り気分のロックソングを書き上げた。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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