ヤング・ファーザーズが語る、UKトリオの「祝祭感」に影響を与えた5枚のアルバム

3. The The 『Infected』(1984年)

―3枚目はポスト・パンク~ニューウェイヴの時代に人気を博したバンド、ザ・ザの2ndアルバム『Infected』。彼らは、残念ながら日本の若いリスナーからはあまり振り返って聴かれることの少ない存在なんです。なので、まずあなたちからこのバンドの魅力を教えてもらえませんか?

グレアム:もちろんザ・ザのことは以前から知っていたけど、新作「Heavy Heavy」に着手する前彼らの作品をいろいろ聴きはじめた。『Soul Mining』などほかのアルバムも大好きだけど『Infected』はアルバム収録曲すべてにビデオ・クリップを制作したのが凄い。当時このMVをすべて映画館で流したらしいけど、現在映像作品は入手不可能でYouTubeでも一部しか見れないんだよね。このアルバムはリズミックなサウンドとダークな歌詞とのバランスがいい。ハイテンポなビートに合わせて、荘厳な歌詞を歌っていてね。音楽的にほかのザ・ザの作品よりもオープンな感じがするし、とにかくヴィジュアル要素がいいんだ。

―ソングライターのマット・ジョンソンは架空のキャラクターの心情を描きつつ、そこに社会的な問題を映す名手です。あなたたちのリリックも彼の影響下にあるのでしょうか?

グレアム:いや、このアルバムが好きなのは俺だけだし、影響はされていないね。マット・ジョンソンの曲は歌詞とメロディの構造が非常に上手くデザインされている。でも、俺たちの歌詞はもっと混沌としていて、ディープかつダークで、同時に幸せな気分になる内容。3人とも飽きっぽいから、ありがちな展開はイヤなんだよね。以前からそれぞれリリック・ブックに歌詞を書き溜めているんだけど、新作はあまりリリック・ブックを使わなかった。スタジオ内でメロディを作っている過程で自然に出てきた言葉を大事にしたから。





4. Toots & Maytals『In The Dark』(1973年)

―ジャマイカを代表するグループ、トゥーツ・アンド・ザ・メイタルズはによるレゲエ時代の代表作。この前作の『Funky Kingston』も高く評価されていますが、こちらを選んだポイントは?

グレアム:これは信じられないほどの名作だね! フレデリック・“トゥーツ”・ヒバートは何でも歌えるシンガー。ソウルフルなガラガラ声で、どんな楽曲でもまるでポップ・ナンバーを口ずさむように完璧なバランスで歌う。これはうちの父さんが持っていたレコードなんだ。銀色に反射するジャケットが印象的だったのを覚えている。実は俺の息子が誕生したとき、最初に聴かせたアルバムがこれだった。情熱やそのほか人間の感情すべてにおいて、教育的なアルバムだと思ったから。トゥーツの楽曲は人間の感情を呼び起こす。聴いていて涙が流れたり、笑顔になったりする。『Funky Kingston』などほかのアルバムを選ぶこともできたけど、このアルバムは俺が子供の頃からずっと聴いてきて、今日までまったく飽きることがない。聴く度にこのアルバムの素晴らしさが増していく。それは俺たちがめざしていることでもあるね。




―ほかのふたりもレゲエやスカ、ダンスホールといった音楽はお好きなんですか?

アロイシャス:スカはあまり興味ないけど、レゲエとダンスホールは大好き。

ケイアス:俺も子供の頃から大のレゲエ・ファンで、特に1960-1965年に制作されたスタジオ・ワン制作の作品が大好き。この地球上でいちばん好きな曲は、子供の頃よく聴いていたジャスティン・ハインズの「Sinners」。歌詞、シンプルな演奏、手の込んだ終盤まで、すべてが別次元。とてもパワフルで、心に響くものがある。情熱的な気持ちを体現している曲だと思う。




5. Otis G Johnson『Everything - God Is Love』(1978年)

―最後の作品は、知られざるシンガーが1978年に自主リリースしたカルトな音源。リズムボックスを作った宅録ゴスペルというか、とてもユニークなサウンドです。このアルバムを知ったきっかけはやはり2013年のNumeroからのリイシューを通じてですか?

グレアム:Numeroは誰も知らなかったような音源を発掘してくる素晴らしいリイシュー・レーベルだよね。このアルバムは、デトロイトの音楽家がマイク1本、キーボード1台、ドラムマシン1台でテープに録音したもの。技術面では完璧じゃないけど、俺たちはいつもこういった音楽に魅了されるんだ。ヤング・ファーザーズの音楽は「度が過ぎるほど騒々しい」だとか「激しすぎる」、「サウンド的に変」だとか言われることがあって、そのことに俺たちはフラストレーションを感じている。でも、技術面や音の面で完璧でもヒドい音楽なんてたくさんあるだろ? そして、その逆のパターンもある。このアルバムがその良い例さ。

アロイシャス:俺はNumeroが再発する前にCDで持っていたんだ。ピアノの演奏面ではミスが多いけど、一人の人間がこういった強烈な音楽を演奏していることが驚きだった。彼の演奏は徐々に良いヴァイブスを生み出し、何からも邪魔されることなく、リスナーを音楽の旅にいざなう。まさにアーティストとして見習うべきものがこの作品には存在する。俺も大好きなアルバムの一枚だね。

ケイアス:演奏をしている人の、すぐ横にいるような気にさせる「ライブ感」があるよね。ヤング・ファーザーズのショーを観に来てくれるオーディエンスもこの「ライブ感」を求めていると思う。

アロイシャス:そうだね。俺たちが小さな部屋でレコーディングしているのも、そういった「ライブ感」を大切にしているからなんだ。



―近年のアンビエント再評価の側面からも、あらためて注目されてもいいアルバムだと感じました。

グレアム:注目されるべきだし、いろいろな音楽が再評価される流れはいいよね。音楽ファンのなかには「自分だけ知っているもの」として他人に教えない人もいるけど、俺たちは「素晴らしい音楽は、あらゆる人たちと共有するべき」だと考えている。だから、こういったアーティストたちがより知られていくといいよな。

―もし、あたなたちがNumeroのような知られざる音源をリリースしていくことを目的としたレーベルをやるとすれば、どのあたりの音楽を発掘していきたいですか?

グレアム:どんな音楽でも発掘していきたいとは思うけど、大変そうだからレーベルを立ち上げたりはしないと思うな(笑)。個人的には、Nyege Nyege Tapesがリリースしている東アフリカのアンダーグラウンドなダンス・ミュージックに注目している。ウガンダやタンザニアとかの若者たちの音楽でカッコいいんだ。俺たち3人は各自違う音楽を聴いているし、自分たちが好きな音楽は皆に伝えていきたい。ヤング・ファーザーズとして世界ツアーに出るようになって、土地と音楽の関連性が見えるようになった。例えば、全米ツアーで砂漠地帯へ行ったときにラジオでカントリー・ミュージックが流れていて、アメリカでのカントリー人気が理解できた。一方で、アフリカツアーでは、多岐に渡る音楽がラジオでかかっていて驚いた。

ケイアス:うん。自分達が発掘した音楽はプレイリストやDJセット、ラジオなどで紹介している。それらの音楽には多様性があるから、ヤング・ファーザーズのスタジオ・ワークの様子がどんなものかが伝わると思う。


Nyege Nyege Tapes関連楽曲をまとめたプレイリスト

―あなたたちは10代前半からの友人でもありますよね。ちなみに少年期にはどんな音楽を一緒に聴いていたんですか?

グレアム:14歳の頃の俺たちはベース音の効いたヒップホップやダンスホールものを(エジンバラの)クラブで聴いていたね。つまり「heavy heavy」な音楽が3人の結束感を強めたんだ(笑)。






ヤング・ファーザーズ
『Heavy Heavy』
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国内盤CD:ボーナストラック収録、歌詞対訳・解説封入
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Translated by Keiko Yuyama

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