薬師丸ひろ子、今を生きる人々に寄り添う歌を紡いだ歌手活動40周年ツアーファイナル



15分の休憩の後、黒を基調としたドレスに衣装を変えて薬師丸は再登場。 これまでに発表してきたオリジナルアルバム全10作品から各1曲を厳選、年代順に#1、2としてまとめた「40周年スペシャルメドレー」で全10曲を届けた第二部の幕開けは、アニバーサリーコンサートならではの華やいだひと時。1984年に竹内まりやが提供した「元気を出して」(1stアルバム『古今集』収録)に始まり、薬師丸自身が作曲した「紫の花火」(3rdアルバム『花図鑑』収録)や、中島みゆき作の「未完成」(4thアルバム『星紀行』収録)など、レアな楽曲を次々と歌い繋いでいく。「40周年でもあり、1曲でも多くの曲をお届けしたい」(薬師丸)との想いからメドレーにしたのだという。 続いて、「ステキな恋の忘れ方」以来32年ぶりに井上陽水が提供した「めぐり逢い」を披露。 薬師丸の澄んだ歌声はロマンティックで、聴き手を陶酔させた。身体を物憂げに傾け、伏し目がちで気怠く歌い始めた「探偵物語」は、元来名曲だが、表現の陰影によって凄みを増して聴こえた。

どれほど曲の世界観に深く引き込まれても、MCでは、薬師丸の柔らかな話し声に心をほぐされて穏やかなムードが会場には広がっていく。メンバー紹介では、名前を呼ぶだけでなくメンバーの魅力が伝わるエピソードを一人一人丁寧に紹介。薬師丸の歌声が心にさり気なく寄り添って染み渡り、愛され続ける理由は、その人柄と無関係ではないだろう。「そしてヴォーカル、薬師丸ひろ子です!」と自己紹介してすぐに「あなたを・もっと・知りたくて」の愛らしいイントロが鳴り、観客は待ってました!とばかりに手拍子。薬師丸はリズムを身体で取りながら終始笑顔で、電話の台詞パートを含め、可憐な歌声を響かせた。「メイン・テーマ」では背後が紫に染められ、ストロボライトが明滅。一瞬赤い世界に染められる光の世界の中で、凛とした声色で歌唱。深いお辞儀をした後、鳴り出したのは歌手デビュー曲「セーラー服と機関銃」のイントロ。薬師丸の歌唱は、激しい感情を内に秘めながらも敢えて抑えているような、深みと奥行きを感じさせるものだった。

歌唱後、デビュー当時のエピソードを語り始めた薬師丸は、歌手デビューは想定外であったことを回想し、「とにかく真っ直ぐに歌った。映画の中の主人公を生きようと思った」と振り返った。その後、多くの主演映画で主題歌を歌う女優・歌手人生を歩むこととなったのは周知のとおり。そして本編最後の曲は、薬師丸の代表曲「Woman“Wの悲劇”より」。ステージが赤く染まり、やがて薬師丸を光が照らし、白く浮かび上がっていく。歓喜と絶望、愛と哀しみ、激情と躊躇い……渦巻く相反感情の全てを受け止めて空へと放つような、歌の包容力と説得力に打ち震えた。1本の長編映画に匹敵する物語を感じさせる、壮大な1曲。拍手はいつまでも鳴り響いていた。

Rolling Stone Japan 編集部

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