キタニタツヤが語る、「抗うこと」の美学と「スカー」へ込めた想い

歌詞に目を向けると、これまでのキタニの作品と同じく人間のダークサイドにフォーカスした楽曲が並んでいる。昨今は「自己肯定感」というワードが取り沙汰され、「嫉妬」や「憎しみ」といった負の感情から目を背ける風潮があると感じることがあるが、負の感情を衒いなく吐き出すキタニの楽曲を聴いていると、自分の中にある負の感情を肯定されたような気持ちにさえなる。例えば「スカー」で歌う、“何度も何度も折れた魂をただ 抱きしめるだけ いつか灰になるその日まで”といったフレーズには、傷だらけの自分をそのまま包み込んでくれるような強さと優しさが内包されているのだ。

表題曲にも、続く「永遠」の歌詞にも“抗う”というワードが出てくる。“恐怖が染みついた世界で いつかは閉じるこの命で 希望を探して歩く姿は美しい”、“呪いのような運命さえ抗い続けよう、永遠に”。おそらくキタニは、抗うことを美しい行為だと思っているのだろう。現状を維持するのではなく、抗うことで前に進んでいける。そう信じているのだ。

「まさに。この地面に人間が二足で立つことも、空気の流れや重力に抗っているわけじゃないですか。この世に生を受けて、存在し続けるだけで、何かに対して『against』な状態であると僕は思っているし、おっしゃるようにそれを美しいことだと思っていますね」



「それはその通りだと思います。音楽に限らず、何かを目指して続けていくことって挫折や失敗、周りの脱落など辛いことの連続なんですよね。つらいことが8割、達成感が2割みたいな(笑)。でも、そういうのも慣れてきたというか、『そうだよね、わかるわかる』みたいな境地になってきたんです。もう10年くらい音楽を作ってきているのでね。傷でも挫折でも自分の財産だと思ってドンと構えていられるように、ようやくなってきた感じ。その覚悟の証として書いたのが『スカー』なんです」

タバコは自分にとって「コミュニケーションを円滑にするもの」と冒頭で語ってくれたキタニ。2023年は、そのコミュニケーションをもっと大切にしたいそうだ。

「2022年はとにかく仕事が忙しくて、たくさんお誘いを断ってしまって。今まで自分は、誰かが僕の誘いを断ろうものなら『ちぇっ!』なんて思っていたのに(笑)、まさか自分がそっちの立場になろうとは。2023年は忙しくてもコミュニケーションをサボらない、遊びをサボらないということを一つの目標にしたいと思っています。飲みに出歩く大義名分にもなりますしね」


キタニタツヤ
1996年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。「sajou nohana」メンバー、「ヨルシカ」サポートなどバンドの一員として活動しながら楽曲提供を行う。2020年8月にはソロ活動でメジャーデビュー。フジテレビ系ドラマ『ゴシップ # 彼女が知りたい本当の◯◯』主題歌などタイアップ曲も多数。
https://tatsuyakitani.com/


『スカー』
キタニタツヤ
ソニー・ミュージックレーベルズ
発売中

Photo = Mitsuru Nishimura Styling = Yuji Yasumoto Hair and Make-up = Tatsuya Suzuki

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE