絶対に見過ごせない「4枚の重要アルバム」2021年10月~12月期リリース編

リル・ナズ・X『Montero』

3. Lil Naz X / Montero



2021年においてもっとも明快な現代性を打ち出しているアルバムと言えば、リル・ナズ・Xのデビュー作『Montero』を置いてほかにない。モダンなラップミュージックをプロダクションの基盤に置きながらも、フラメンコ、ロック、ポップと節操なく広がるポストジャンルな音楽性。アフリカンアメリカンのクィア男性としての苦悩を実体験を踏まえながら歌いつつ、同じ悩みを抱えるリスナーに手を差し伸べる切実で誠実なリリック。音楽のみならず、MVでのヴィジュアル表現やSNSでのバズマーケティングも含めて総合的に自身のアートを構築するプロデューサー/マーケッター的な視点。どれも非の打ちどころがなく現代的であり、すべての要素がきっちりと「差別や偏見と闘う黒人クィア男性のスター」という文脈を強化することに寄与している。まったく隙が無い、見事な作品だ。ただ、全体的に納得感はあっても驚きは少なく、特にサウンドそのものの刺激がやや乏しいところは評価を分けるだろう。

4. Wiki / Half God



『Montero』があらゆる意味で2021年USメインストリームのトレンドど真ん中だとすれば、アンダーグラウンドの生き生きとした胎動を伝えるのがウィキのソロ三作目『Half God』だ。ラットキング時代から数えてキャリア10年となるNYアンダーグラウンドヒップホップのカルトスターは、ここにきてアール・スウェットシャツ以降のNYアンダーグラウンドと邂逅している。

本作はネイヴィ・ブルーが全編プロデュースを務め、アールやマイクも参加。最新鋭のNYを体現するネイヴィのメロウでヒプノティックなビートをキャンバスに、ウィキはプエルトリコ系のニューヨーカーとしてジェントリフィケーションが進む街を見つめ、コミュニティの大切さをラップする。NYアンダーグラウンドの勢いと底力を同時に体感させる、ウィキのソロ最高傑作。

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Edited by The Sign Magazine

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