AC/DC『地獄のハイウェイ』40周年、世界一のロックバンドがもたらした影響力を振り返る

ロックンロールを貫くAC/DCの本質

AC/DCは日本では想像もつかないほど海外人気の高いバンドだ。後進バンドへの影響力も極めて大きい。AC/DCの魅力とはどこにあるのか。それはアンガス・ヤングの次の発言にすべて集約される。

「オレたちの原点はロックンロールなんだ。ロックンロールこそ、オレたちが得意とするところで、それ以外のものを目指したことなんかない」

この信念とブレぬ姿勢。ごく初期にはアコースティックを使ったバラードがあったり、当時人気のあったグラム・ロックの影響を感じさせる曲があったりもするが、彼らのサウンドは『T.N.T.』以降まったく揺るがない。リフ主体の荒々しくタフなブギ&ロックンロールのみ。本当に必要なことしかやらない究極のミニマリズム。彼らの曲はBPM120台のミディアム・テンポが多い。速さや重さの追求よりもグルーヴを重視するためだ。適度なテンポが、良い酒に酔ったような心地よいスウィングを生む。ザックザックと切れ味のいいリフを刻むマルコムのリズム・ギター、ときおりトリッキーなフレージングをはさみこみつつも、オーソドックスなブルース・ギター・スタイルを崩さないアンガスのプレイ、そして堅実にボトムを支えるリズム隊はシンプルで、あくまでもソリッドでタイトだ。そしてボン・スコット〜ブライアン・ジョンソンと続く塩辛声は、AC/DCというバンドのカラーを決定づけている。いわばパブで呑んだくれているような労働者たち、つまりは大衆の中から生まれたバンド、というイメージである。そうした路線が確立されると同時に金太郎飴と言われるワンパターンのブギ&ロックンロールも始まったわけだが、その信念の深さ、それを裏打ちする音楽の強さこそが、彼らがリスペクトされ続ける理由でもある。


『地獄のハイウェイ』リリース当時のAC/DC(Photo by Fin Costello)

彼らはデビュー以来、音楽シーンのトレンドが移り変わる中、そのつどさまざまなジャンルにカテゴライズされてきた。ハード・ロック、パンク、ヘヴィ・メタル、ガレージ・ロック……だが彼らの音楽性そのものは1ミリたりとも変わっていない。1ミリたりともだ。それは彼らの揺るがぬ姿勢が、ロックンロールの本質に直結しているからだ。

彼らの影響源として指摘されるのは、T・レックスやスウィート、スレイドといったグラム・ロックの流れ、あるいはレッド・ツェッペリンやフリー、ザ・フー、キンクス、ローリング・ストーンズといったブリティッシュ・ロック、そしてベーシックなブルースやブルース・ロックだ。だが彼らの源流にあるのは、チャック・ベリーに代表される50年代のオリジナル・ロックンロールである。



チャック・ベリーの代表曲「スクール・デイズ」は、良い子の規範を教わる退屈な授業が終わったら、ジュークボックスのある店で好きな音楽を全身で聴いて踊りまくれ、と歌われ、「古い時代とはおさらばさ」と高らかに宣する。もっとも初期のティーンエイジ・アンセムといわれるこの曲はロックンロールの原点と言えるが、それをもっとも正統に受け継いでいるのがAC/DCなのである。それはアンガス・ヤングの、昔から変わらぬスクールボーイ・ファッションに象徴されている。子供たちを縛り付ける学校の規範は、もちろん社会のメタファーでもある。AC/DCはロックンロールがもたらす自由と解放を体現し続けているのだ。リチャード・リンクレイター監督の映画『スクール・オブ・ロック』は全編でAC/DCの曲が演奏され、主演のジャック・ブラックがアンガスさながらのスクールボーイ・ファッションに身を包んでロックの魅力を説く、全編これ「AC/DC哲学」に満ちた大傑作だ。




映画『スクール・オブ・ロック』でAC/DCの曲が流れるシーンをまとめた動画

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