ブラッド・ペイズリーはナッシュヴィルのアーティストのなかで、もっともプログレッシヴで思慮に富んだソングライターのひとりだ。しかしキャッチーなヒット曲でアメリカが人種や文化のるつぼであることを讃えたり、オバマ大統領を支持したりした彼が、近年はそういったセンスの良さを失っている。

2013年のLLクール・Jとのデュエット曲「Accidental Racist」は自分が南部出身であることに対する複雑な想いを歌った6分間のパワー・バラード。大胆な楽曲ではあったが、その内容はぎこちなく、屈辱的と捉えた評論家もいる。インターネット上では、だいたい、史上最悪の楽曲として扱われていた。

また本作の彼は野心を抑えている。昨年の『Wheelhouse』で行われたような実験的な試みはみられず、代わりにパーティ・アンセムやカー・セックスについてのくだらない曲、そしてペイズリーの華々しいギター演奏が満載だ。最高作ではないかもしれないが、最も楽しい作品ではある。だが彼は、大きな問題に取り組むことを諦めたわけではない。以前よりも遠回しなだけなのだ。「Shattered Glass」では、想像上の娘を応援している。“世の中は君の翼を切り取ろうとするだろう/でも、君はそうはさせない/そうだ、ベイビー、勝ちにいこう”。サビに入ると、タイトルがガラスの天井、つまり目に見えない障害のことだったとわかる。甘く、少々ありきたりなトーンで性差別の観念に基づいて書かれたような曲は、カントリー・バラードで初だろう。ペイズリーはこの曲のように、狡猾かつ穏やかに限界を押し広げるような作品作りを生き甲斐にしているのだ。

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