2012年に発表された楽譜のみでリリースされたベックのアルバム『Song Reader』を、豪華アーティストがカヴァーした。敢えてベックらしいサウンドを押し出すのではなく、それぞれのアーティストの個性を感じることができる、素晴らしい作品だ。

『ベック・ソング・リーダー』の楽曲は、他のアーティストが演奏するために意図的に個性を削ぎ落としたものなのだから、然るべき仕上がりといえる。とはいっても、これはベックの作品。わかりやすい曲でも、やはりどことなく魅惑的で奇妙なのだ。そのフレーバーはアルバムの中でも特に優れた曲に、より顕著に現れている。

「Just Noise」では、ノラ・ジョーンズが耳に心地よいゆがみを持って自身の失恋を振り切る。またビートルズ風にアレンジされた「Please Leave a Light On When You Go」に、FUN.は精神病的なものを見いだす。意外にも、あのジャック・ホワイトが“タンクトップを着て社交界デビューする女の子/俺がどうしたら自由になれるかを教えてくれる”なんて歌ったりもしているのだ。

「I’m Down」での彼は、ピアノとペダル・スティールにエネルギッシュなグルーヴを与え、全体的に滑稽でありながらも悲劇的な雰囲気を上手く演出している。まるで自分の持ち歌さながらだ。そして、シンガー・ソングライターのガブリエル・カヘインは『Reader』の持つ戦前のヴァイブを変幻自在にアレンジ。「Mutilation Rag」を素晴らしい作品に仕上げた。アルバムをつらぬく “オールドファッションの音楽も、適切な見方をすればかなりイカしたものになる”という信念を体現している。

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