“俺たちは高く上っていく、空を制覇するほどに!”アダム・レヴィーンはマルーン5の5作目のアルバムで、そう歌う。そして彼らはその約束を守った。収録された11曲は正確に調整され、輝くほどに磨かれていて、まるで男のパラダイスのようなフックとサビが詰め込まれている。

滑らかな前進運動と完璧なスタイルによって仕上げられた『V』は、驚くほどに印象的なスペクタクル「ペイフォン」を収録し、21世紀トップ40に入った2012年の大ヒット・アルバム『オーヴァーエクスポーズド』よりもシャープになったと言えるかもしれない。

音楽的には、70年代終盤のヒット・フレイヴァーを、ケイティ・ペリーの時代へとアップデートしている。レヴィーンは全曲で共作し、スウェーデンのダンス・ポップの巨匠マックス・マーティンとシェルバック、「ムーヴス・ライク・ジャガー」の共同プロデューサーのベニー・ブランコ、90年代R&Bの大物ロドニー・ジャーキンス、ポップの有名建築家ライアン・テダー、シア、FUN.のネイト・ルイスといった業界の人気ラジオ魔術師たちが参加している。

聴いた瞬間に彼のものだと認識できるレヴィーンの美しいテノールは、豪華な音響にも上手くとけ込んでいる。ペリー風の「シュガー」では、ファンク・ギターのソロが、まるで太陽の光を存分に浴びたような元気なグルーヴに乗って疾走する。レヴィーンは“あの赤いビロードが欲しい/あの砂糖のような甘さが欲しい”と歌い、まるでアルバムのデザイン仕様をリクエストしているかのようだ。そして「マップス」ではレヴィーンが甲高い声を発し、アンディ・サマーズ調のギターのしぶきと強く打つドラムを追って孤独な夜の中へと入っていくような、脈動するミッドテンポ・ナンバーになっている。

21世紀初頭から中盤にかけてのマルーン5は、キャッチーなチューンを大量に発表していたものの、これといった確定的なイメージを持たない折衷的なポップ・ロック・バンドであった。『The Voice』(アメリカの人気オーディション番組)にも出演したレヴィーンは、音楽業界で最もビッグなセレブリティ・パーソナリティだ。

それは『V』でもあからさまだ。「アニマルズ」では猛烈なセックス・パンサーとなり、「イン・ユア・ポケット」では浮気したガール・フレンドとの立場を逆転させる狡猾な犬となる。「ニュー・ラヴ」で、“今夜は諦めちゃ駄目だ/一生後悔するから”と歌う彼の言葉には説得力がある。彼のヴォーカルは、緊張したベース・ラインとシンセの大きなうねりに合わせ、さまざまな方法で宙返りやフェイントを繰り返す。

しかし不運なことに、彼らの場合こういった強みが弱みともなってしまう。彼らの多才ぶりは少々薄っぺらい印象を与えてしまうのだ。レヴィーンのヴォイスはパワフルな楽器ではあるが、一連の失恋ソングが収録された2002年のデビュー作品『ソングス・アバウト・ジェーン』にあったような感情に訴える存在感に欠けているように聴こえる。最近結婚したばかりの彼の現在の生活を最も良く表す曲はフィル・コリンズ風の「It Was Always You」で、理想の女性を見つけたことの喜びを全面に押し出している。

マイケル・ジャクソン風のしなやかな1曲「フィーリングス」を聴いてみて欲しい。『V』に収録されているほとんどの曲がそうであるが、これほどシャープに仕上がった曲は、どんな欠点も気にならなくなる。しかし、バラード曲になると、欠点は顕著となる。

派手で大げさな「リーヴィング・カリフォルニア」や『The Voice』の共演スター、グウェン・ステファニーとのピアノ・テンペスト「マイ・ハート・イズ・オープン」では、レヴィーンのパフォーマンスはどうも一本調子に聞こえてしまう。もしザ・ローリング・ストーンズのようなパフォーマンスがしたいのであれば、彼らの名曲「悲しみのアンジー」から少しヒントを得たほうがいいかもしれない。そうすれば、空を制して、嵐雲も味方につけることができるだろう。

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