ゼイ・ウォント・マイ・ソウル

 スプーンは過去20年間、“ミニマリズム”とは小さく考えることではないと証明してきた。このオースティン出身のバンドは8枚の作品を通して、チャガチャガと鳴るギターと切れの良いフック、フロントマンのブリット・ダニエルの皮肉っぽい辛辣なヴォーカルの上に成り立ったサウンドに固執してきた。興味深いのは、彼らがそのサウンドにどのような手を細かく加えたかだ。ほとんどの場合、聴き手が思うよりも深みのあるソングライティングにスタジオ技術、そしてクラシック・ポップのダイナミックスが加えられている。彼らの重大な転機となった『Kill the Moonlight』(2002年)でのがんじがらめの不安は、ブッシュ政権時代にウンザリしていた若者たちにとって完璧な内容だった。

 2007年にリリースされた『Ga Ga Ga Ga Ga』は、真正なる見事なポップ・ソング「You Got Yr. Cherry Bomb」のおかげでチャートのトップ10へと潜入した。彼らのバンド史に、失敗に終わった実験や仲違いのドラマは存在しない。その素晴らしさは、単純に長い間ゆっくりと作り上げられたものなのだ。

 ダニエルの意外にも自信たっぷりな態度は、スプーンの半ば公然の武器であり続けてきた。彼はボタンダウンのシャツを着るような賢いタイプで、攻撃性と洗練さを兼ね備えながら歌う。ザ・ピクシーズを聴いて初めてそのスピリットを感じた白人のソウルボーイだ。これまでの数十年間、彼は、ワイアーの骨っぽいポスト・パンクとビージーズの60年代後半のアート・ポップ、そして、70年代のストーンズの自慰行為的な生気の間にある居心地の良い空間へとバンドを導いてきた。

 スプーンの8作目は、バンドの最高傑作と言える、すぐに聴き手を魅了する一枚だ。そして、スプーンが初めて大物プロデューサーたち(オルタナ・ロックの中心的プロデューサー、ジョー・チカッレリとデイヴ・フリッドマン)を大々的に起用した作品で、彼らはフックの効いた楽曲におけるリッチで輝きのあるサウンドを作り出す手助けをしている。アルバムのオープニング曲「レント・アイ・ペイ」は簡素なスネアドラムがバシッと鳴り、その後はタフにゆっくりと展開していく。そして、情味のないコードと腹でゴロゴロと鳴るようなベース、ガレージふうのオルガンが、ダニエルの犠牲と自尊について吠える歌詞を支える。「インサイド・アウト」では、軽やかなトリップホップのビートに合わせてファルセットでロックする。「アイ・ジャスト・ドント・アンダースタンド」は、かわいらしさを取り除いた、訴え掛けるような60年代初期っぽいR&Bバラードだ。

 今作の幅広い音楽的なパレットは、ダニエルのこれまでで最もエモーショナルな歌詞に起因している。彼はこれまで特にドクター・エンパシー(共感のドクター)というわけではなく、慎重に距離を持って歌詞を書いてきた。しかし本作では、より多くのアプローチが施され、ある種の明瞭さやロマンスが楽しめるのだ。“理解されたいと思ってるのかい?”と彼は哀愁を帯びた「ドゥ・ユー」で問い掛ける。「アウトライア」は“庭園の州(ニュージャージー州)”を去って行った娘を示唆する。彼女には“センスがあった”と。それは、『ヴェロニカ・マーズ』や『The O.C.』に曲を提供し、映画音楽も手掛けることでハリウッドにもインディ・ロックを広めた彼の自虐的な暗喩にも思える。

 アルバムは、スプーン史上最も洗練され、最もキャッチーと思われる曲で幕を閉じる。「ニュー・ヨーク・キッス」はLCDサウンドシステム(さらに言えば、エース・フレーリーの「New York Groove」)を連想させる一曲だ。大きくうねるダンスロック・グルーヴに乗り、目立たないシンセとさざめくマリンバ、ガラガラと鳴る不気味なギターが響く。ダニエルはエキゾチックな街の超イカした娘への想い、その街に戻るたびに“ハッキリ”とよみがえる思い出を歌にする。20年前なら、ロック・ラジオではかからなかったような曲だ。そういった時代は過去のものとなった。しかし、スプーンは彼らの世界において、彼らなりの成功を収めてきた。そして、その世界はこれまでになく大きく、明るくなっているようだ。

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