デーモン・アルバーンは常に自分と音楽との間に距離を置いているほうがラクなタイプなんだろうと思っていた。ブラーのフロントマンとしての彼は小生意気で皮肉的というイメージの後ろに隠れ、現代の英国をウィットに富んだ辛辣な言葉で風刺した音楽をプレイしていた。ゴリラズでは、KISS以来の大掛かりなヴァーチャル・バンドを作り出した。そしてグローバル・ミュージックに進出し、マリ人のギターの達人とジャムったり、オペラを書くために中国に渡ったりと、エキゾチックなものに溺れる世俗的な探求者だった。2012年には、16世紀の英国の神秘的な人物であるジョン・ディーの人生を題材にしたアルバムを発表した。しかし、彼は今まで一度も21世紀の英国の神秘的な人物、デーモン・アルバーンの人生を題材にしたアルバムを作ってはこなかった。

今回のアルバーンのソロデビュー作には、彼の音楽に対する興味のすべてが詰まっている。ゴリラズのダブっぽい雰囲気、カリブやアフリカ的な音、クラシックさながらの楽器編成、そして昔の英国を彷彿とさせる教会の聖歌隊のようなコーラス、それらをすべて包み込むような歌声。その歌声は、以前は鋭く不機嫌なイメージだったが、今では深みがあり、何かを探し求めるような感じになった。ゴリラズの最近の2枚のアルバムで、どちらも10年に発売された『プラスティック・ビーチ』と『ザ・フォール』は、しばしば、マリファナでハイになっているような侘しさが感じられた。この『エヴリデイ・ロボッツ』ではさらにその侘しさが強調され、かなり暗い曲も多い。

アルバーンはコラボレーションに熱心で、過去にもボビー・ウーマックやルー・リードなどの偉大なミュージシャンとコラボレーションを行ってきた。でもこのアルバムでは共演者たちはあまり目立たない。プロデューサーのリチャード・ラッセルはうっとりするような雰囲気のある音を作り出している。不安定な関係を歌った「ザ・セルフィッシュ・ジャイアント」ではバット・フォー・ラッシーズのシンガーのナターシャ・カーンのコーラスが微かに聴こえる。ブライアン・イーノは「ユー・アンド・ミー」でシンセで参加し、酔った水夫の舟歌のような「ヘヴィ・シーズ・オブ・ラヴ」ではヴォーカルを披露しているアルバムは、ゴリラズの活気や、ブラーのギターの鋭い音などよりも、最も瞑想的だったイーノの70年代のアルバムや、レイ・デイヴィスが当時の環境に最も失望していた『ヴィレッジ・グリーンプリザヴェイション・ソサエティ』時代を思い起こさせるものとなった。

オープニングのタイトル曲は穏やかに孤立したような雰囲気を作り出している。アルバーンは携帯を見つめている通勤客の波間を漂っている。“立石のように/僕たちだけがそこにいる”。曲には東洋と西洋の弦楽器、陰鬱なピアノ、原始的な雰囲気を持ち合わせたパーカッションのグルーヴなどがミックスされている。ほかの曲も同じようなバランスで楽器が使用されていて、アルバーン個人の歴史を浮き彫りにしている。「ユー・アンド・ミー」は、西ロンドンにある彼の家の近くで行われたトリニダードのカーニバルが舞台になっていて、スチールドラムがよくわからないデジタルの軽快な楽器と共演している。アルバムでいちばん明るい曲「ミスター・テンポ」は、彼がタンザニアの自然保護地区に行った時の経験を元にしている。楽しそうにウクレレをかき鳴らし、子象にセレナーデを歌う。

アルバムの中で最も彼がわかるのが「ホロウ・ポンズ」だろう。この曲は葬列のように進行し、アルバーンの人生を振り返っていく。子供の時に黒海で休暇を過ごしたこと、ロンドンで落書きを見てブラーの93年発売のデビュー・アルバムのタイトル『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』を思いついた日のこと。それらのイメージは時に競い合い、時に混ざり合って、“僕たちは液晶画面で夢を分かち合う”という歌詞に集約されていく。曲の終わりには、サンプリングされた地下鉄の走る音が聴こえる。アルバーンのような飽くなき革新者は、過去に何をやってきたかということよりも、この先どこへ行くのかのほうが常に大切なのだ。

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