The Novembersが語る、セルフタイトルの「新章」とこの4人でバンドをやることの意味

 
「新しい始まり」への相反する気持ち

ーライブはアルバムと同様、「BOY」からスタートしましたが、「BOY」はバンドのルーツのひとつである90年代オルタナロック色の濃い楽曲で、何度も「生まれ変わる」というフレーズが繰り返されます。最初にこういう宣言をすることに何か意図はあったんでしょうか?

小林:今作が新しい始まりっていうことは、バンドのムードとしても、セルフタイトルからも読み取れると思うんですが、こと詞とか表現そのものに関して言うと、もっと朧気だったんですよね。音やメロディが詞を連れてきてくれることが多かった。「こういうことを言いたいから、こういう言葉を用意しました」ってことがすごく少なかったんです。アルバムは「バンドそのものを高らかに宣言したい」っていうムードと同じぐらい、 自己批判や自分たちを顧みることが透けて見えると思うんです。ダブルミーニングじゃないですけど、併走してる感覚があるんですよね。「BOY」も「僕ら生まれ変わる 今夜生まれ変わる」って歌っているけれど、「結局何も変わんないじゃないかよ」ってことも歌ってる。それは自分たちに対しても、世の中に対しても思うことで。「もうこうなんだからしょうがないじゃん」っていう諦念にも似た気持ちがいろいろな曲にあるんです。そこで「どう気を吐いていくのか」とか、「誰かを幸せにすることができるか」っていうことをちょっとシリアスに考え始めました。

ー確かに、デビュー15周年の展覧会をきっかけに完成したという「かたちあるもの、ぼくらをたばねて」でも、“かたちあるもの”とか“ゆるぎないもの”っていう言葉が入っていて前向きさを感じる一方で、諦念も漂っているというか。

小林:そうですね。XTCの『Apple Venus Vol.1』っていう作品の裏ジャケットに、「好きなことをしてもいい。ただし、誰も傷つけないやり方で(DO WHAT YOU WILL BUT HARM NONE)」っていう言葉が書いてあって、それが僕の物を作る時に大事にしている考え方のひとつなんです。その言葉をぽんと放り投げられた時に、「何をやってもいいんだ?」っていう受け取り方と、「誰一人傷つけない物事なんてこの世にあるんだろうか」という受け取り方がある。自分以外の誰かとコミュニケーションをすると、どんな優しく正しい言葉だとしても誰かを傷つけているかもしれないという想像力がその一行に詰まっている気がして。「かたちあるもの、ぼくらをたばねて」にもそういうものがある気がするんです。「揺るぎないものって本当にあるのかな?」と。


小林祐介(Vo, Gt) Photo by Daiki Miura


ケンゴマツモト(Gt) Photo by Daiki Miura

ー吉木さんは今作の歌詞についてどんなことを感じましたか?

吉木:一緒にバンドをやってる当事者でもあるので、バンドの状況を踏まえると、小林くんの歌詞に背中を押されたことが結構ありますね。その「生まれ変わる」っていうフレーズが何度も出てくることだったり。

ケンゴマツモト(Gt):自分も当事者だっていうことはかなり感じます。これだけ長い間一緒にいると、 自分の中にインナー祐介みたいなのが発生してるんですよね。内なる祐介みたいな。

吉木:イマジナリー祐介(笑)。

ケンゴ:そうそう。だから、「November」の憂鬱な雰囲気の中での“愛を束ねて”っていう歌詞とか、自分のことを歌っているように思う曲が今までで一番多かったです。もしかしたら祐介の書く言葉が、分かりやすく開かれてるからなのかもしれない。それでより自分の中のインナー祐介にコミットしたんじゃないですかね。


高松浩史(Ba) Photo by Daiki Miura


吉木諒祐(Dr) Photo by Daiki Miura

ーThe Novembersのファン、それぞれがインナー祐介を持ってるんだと思いますし。

小林:自己完結できることの良さと退屈さって両方ある気がするんですよ。さっきも言ったけど、昔は子供部屋みたいなところで曲を作って、自分が聞いて嬉しくて幸せで、「それをみんなに聞いてもらおうかな」ぐらいな感じだったと思うんです。でも今は、「僕はこれが好きだから、そのまま最後まで作りきっちゃう」みたいなモチベーションがないっていうか。今回、「この音楽性にチャレンジしてみよう」とか「新しいことやろう」っていう意識が全然なかったんです。フォーカスしたかったのは、自分たちが何を表現するか。「今この瞬間、自分たちはこう感じられたので、その大事なものを音にしてみました」っていうすごくシンプルな思考で曲ができていった気がします。

もちろん僕の頭の中にもメンバーがいて、例えばフレーズがバッて出てきた時、頭の中ではメンバーがかっこいいプレイをしている姿を想像している。それを僕自身がどう思うっていうより、僕の中のメンバー像とかファンのThe Novembers像が「良い!」って言ってるようなインスピレーションを一番大事にしました。ハッキリした理由はないけど良い気がするもの。

レコーディングでも「バイブス」とか「気」っていうワードがよく飛び交ってました。自分たちで作った作品ですが、未来から来た音楽って思うところもちょっとあって。「自分たちがこういう未来にいて、こんなふうに幸せになってるであろう」っていうことは、「今俺たちが作る作品ってこうだよね」っていうインスピレーションを未来の我々4人が送ってきてるような。それで、多分10年後ぐらいに大きなライブハウスとかで、「あの時この作品作って良かったよね」って話を僕らはしているんだろうと。目に見えない導きみたいなものがあった気がします。それで言葉も変わっていったのかもしれないです。

ーそれは15周年を経たことが大きかったんでしょうか?

小林:15周年を迎えて、今まで自分たちが作ってきたものに対する愛おしい気持ちや、それを楽しんでくれるファンに対して感謝の気持ちが溢れてきたところはありました。でも、コロナ禍で習慣や力を極限まで失ったことの方が大きかったかもしれない。コロナ禍に、いろいろなものをインプットして、考え方や哲学をアップデートするんだって息巻いていたのに、それが結局何も生み出さないことに挫折した感覚がありました。何より大きかったのは、自然とメンバーと連絡を取らなくなって、「自分たちは何曜日にリハって決まってたからリハをやってただけなんだ」って思った。それって言葉にするとつまらない話なんですが、すごく重要で。要は慣性の法則でバンドをやっていて、いざ何かによって強制的に止められた時に、能動的に「やるか」って動くモチベーションがないのかもしれないと思ったんです。さっきの「世界は変わらないじゃないか」っていう話と一緒で、「自分たちはもうそうなんだからしょうがない」っていう。でも、やるかやらないかで言ったらやるんだなっていう風に思って、ようやくスタートが切れた感じがします。

ーポジティブな気持ちがありながらも、そこにはネガティブさも混じっているというか。

小林:そうですね。僕はきっとそれまで、自分が突き動かされる魔法みたいなスイッチを探し求めて世の中を見たり、いろんなインプットをしてきたと思うんですよ。でもそうじゃなく、自家発電するようなことを起こさないと有り余るエネルギーを人にシェアできないんだっていう結論に至った。ロックバンドのフロントマンとして、誰かにエネルギーを補給させてもらう生き方はダメだなと。バンドが最小単位として何かのエネルギーをジェネレートするんだとしたら、そういうライブとか作品以外は今は作りたくないって思いました。

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