「朝霧JAM」体験記 新人ライターが人気キャンプフェス初参加、リアルな感想をレポート

 
toeなど初日から見どころ満載、大自然にも感動

次は、今や世界的アーティストとなった青葉市子のステージ。ストリングスを迎えた6人編成による、上品で豊穣な響きが朝霧高原の豊かな自然環境と調和していた。どこからともなくシャボン玉が飛び交い、子ども達のはしゃぐ声が音の隙間に入り込む。美味しい空気を吸って自然そのものを全身で感じる喜びは忘れがたい。草原なので地べたに座っても非常に気持ちいいし、実際後方では寝転んでいる人々の姿も見られた。

その後も、冥丁のダンスミュージックとアンビエントの境目をざらっとした電子音で漂うようなプレイは衝撃的だったし、折坂悠太は緩急つけたセットで夕暮れ時の会場を彩り、多くの人が引き込まれていた。今こそ観たい注目の新人から経験豊富な実力派まで、素晴らしいアーティストがバランスよくブッキングされている。そして、フジロックと同様に海外勢も充実している。


冥丁(Photo by Daiki Miura)


折坂悠太(Photo by Taio Konishi)

米テキサス州からやってきたインディーバンド、ハウディ(Hovvdy)は音源の印象よりも鋭いオルタナティブロックで、からっとしたサウンドが最高に心地良い。雲に覆われていた富士山が姿を見せると、それを見たメンバーは「beautiful!」と感嘆し、まじまじと見つめながら「ピースフルなフェスだね」と絶賛。「テキサスに帰りたくない!」とまで言い出すという終始ご機嫌な様子で、終始ハッピーな雰囲気が充満していた。


ハウディ(Photo by Taio Konishi)


日中のRAINBOW STAGEに集まったオーディエンス(Photo by 宇宙大使☆スター)

夕方5時頃になるとお腹が減ってくる。夏より気温が低いとはいえ、野外フェスは体力を使うのだろう。飲食店はどこも並んでいたが、少し待てば注文口までたどり着くため、食事に苦労することはなかった。昼頃にもカレーやラーメンを食べたが、このときは無料でご飯を大盛りにできる豚丼を美味しく頂いた。

食べ終わった食器は、丁寧に分別を案内してくれるスタッフの指示通りゴミ箱へ。「世界一クリーンなフェス」を謳うフジロック以上にゴミが落ちていなかった印象だ。ゴミ袋を無料で配っているのもありがたい。


その頃、編集・小熊は朝霧食堂へ。ぐるぐるウインナー、富士宮やきそば、ミルク味噌ラーメンといった名物フードがずらり(Photo by Toshiya Oguma)


ミルク味噌ラーメン。朝霧牛乳をたっぷり使用したクリーミーな味わい(Photo by トゥッティーニ)

午前から昼過ぎにかけては風が吹くと肌寒いものの、日光が出てくると暖かいため、Tシャツにフリースという調節しやすい格好はちょうどよかった。しかし、日没後は別世界のように冷え込む。あまりに寒いのでトレーナーを重ね着したが、それでも夜は猛烈な寒さだった(編注:例年より2週間開催が遅かったこともあり、最低気温は4度ほど)。防寒対策が不十分だったのは反省点だ。寒さに震えながらも、この日の個人的な目玉でもあるカッサ・オーバーオールに備えてRAINBOW STAGEに向かう。

定刻通りにカッサがバンドを従えてステージに登場すると、話題の最新作『ANIMALS』から「Ready To Ball」を披露。カッサはジャズドラマーでもありながらプロデューサーでもある、先鋭的で革新的なジャズアーティストだ。さらに、ラッパーとしてもステージを縦横無尽に駆け回る。ドラムを叩いたり、ラップしたり、観客を煽ったりと、メンバー全員が役割や担当パートを目まぐるしく入れ替えながら、分類不能で尖った音楽性を炸裂させる。メンバーのトモキ・サンダースが時折日本語で観客に語りかけるのも盛り上がりに拍車をかけていた。この日イチの盛り上がりだったのではないか。何も知らなくとも楽しいに違いない熱量満点のステージで寒さを吹き飛ばしてくれた。

余韻に浸る間もなく、急いでそのままMOONSHINE STAGEのアルバム・リーフへ。ジミー・ラヴェル率いる熟練のポストロックバンドだ。遠くからでもクリアに聴こえてくる凄まじい低音。そのあまりにも重厚で驚異的なサウンドを浴びながら、カッサとのタイムテーブルの被りを少し恨めしくも思った。


カッサ・オーバーオール(Photo by Taio Konishi)


アルバム・リーフ(Photo by Daiki Miura)

すっかり真っ暗になった夜7時にtoeが登場。clammbonの原田郁子と、音楽プロデューサーでキーボーディストの皆川真人を迎えたスペシャル編成で出演し、RAINBOW STAGEには大勢の観客が集った。その裏で、MOONSHINE STAGEではOGRE YOU ASSHOLEが硬質な人力ループミュージックで強烈な磁場を作り出していたのも圧巻だった。


toe、原田郁子(Photo by Taio Konishi)


OGRE YOU ASSHOLE(Photo by Daiki Miura)

そして、この日のRAINBOW STAGEトリであるカナダのジャズインストバンド、バッドバッドノットグッド(以下BBNG)の出番に向けて待機。リハーサル終わりにサポートメンバーのベーシストが手に息を吹きかけて温めているのが目に入った。さすがに20時を回ると手もかじかんでくる。手袋を着用する人も数人見かけたが、確かにあったら安心だと思った。

スクリーンに映像を投影しつつ、照明演出も少なめにシンプルなステージングで熱い演奏を繰り広げるBBNGだったが、あまりの寒さに耐え切れずテントへ戻る。幸いにも、CAMP SITE Aならテントでくつろぎながら演奏を聴くことができる。こんなふうに、それぞれが思い思いの時間を満喫できるのも朝霧JAMの魅力なのだろう。


バッドバッドノットグッド(Photo by Taio Konishi)

レンタルしたコットを組み立て、寝袋に包まり就寝の準備。BBNGの出番が終わってもまだ22時だったので、キャンプを楽しみに来た人々の楽しそうな声も遠くから聞こえてくる。朝霧JAMはここからが本番だという人も多いに違いない。

テントから顔を出して空を見上げると、そこには満点の星があった。この日はちょうど流星群もピークを迎えていたため、流れ星を見ることもできた。寒さも時間も忘れて見入ってしまう絶景だった。


思わず見入ってしまった夜の景色(Photo by 宇宙大使☆スター)

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