ブリンク182の軌跡、ポップ・パンクを「時代の音楽」として表現してきた3人

マークがSNSで癌を公表、トムの電撃復帰

再び流れが変わったのは2021年に入ってからだ。6月にマークがSNSで癌を公表、過去3カ月間秘密裏に治療を受けていたことも明かした。マークの癌はその後完治したと発表されるのだが、この間トム、マーク、トラヴィスの3人は集まって、過去の問題も含めていろいろな話をしたようだ。この辺りからトムのブリンク182復帰の噂は出始め、2022年10月11日になると、突如ブリンク182はトムの復帰、ツアーの開催、新曲のリリースを発表することとなる。

トムの電撃復帰とも言えるこの発表は大きな話題となった。2022年になると、ポップ・カルチャーの世界ではY2Kリバイバルが大きな現象となっており、音楽の世界ではポップ・パンクが新たなトレンドとして再び注目されるようになっていた。トラヴィスにしても、長い間ロックとヒップホップとのクロスオーバーを、自身のソロ・プロジェクトやDJ AMとのコンビ、ランシドのティム・アームストロングと組んだトランスプランツなどで表現してきたが、この数年は新世代ヒップホップ・アーティストとのコラボや彼らのプロデュースで、プロデューサーとしての名前をどんどん上げていった。その背景には、XXXTentacion、JuiceWRLD以降、ヒップホップの側からロックを取り入れる逆クロスオーバーが始まっていて、そこからポップパンク、エモが再び注目を集めるという現象が生まれていたのだ。2020年9月にトラヴィスがプロデュースを手がけた、マシン・ガン・ケリーのアルバム『Tickets to My Downfall』がビルボード200で1位になったことも大きい。トラヴィスはレーベルのDTA Recordsも主宰し、jxdn、Caspr、アヴリル・ラヴィーンといったアーティストと契約し、新旧世代のポップパンクもどんどん盛り上げていく。新世代アーティストたちにとって、トラヴィスは一番コラボをしたい、今最も旬なドラマー/プロデューサーとなったのだ。

そういうタイミングでのブリンク182の再結成だから、熱狂的な歓迎をもって受け入れられたのも当然だと言える。10月11日には翌2023年にラスベガスで開催されるポップ・パンク/エモのフェス「When We Were Young」に、グリーン・デイとともにヘッドライナーを務めることも発表。そして新曲の方も、10月14日に「Edging」がリリースとなり、この曲はトム、マーク、トラヴィスの3人が10年振りに一緒にレコーディングを行ったものが形となった。この曲はビルボードのAlternative Airplayで1位、Hot 100で61位を記録。バンドのキャリア史上最大規模となるワールド・ツアーも発表され、2023年3月11日のメキシコ公演を皮切りに、北米、南米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドと、2024年まで続く予定が発表された。





ところが2023年3月11日、トラヴィスがリハーサル中に左手の薬指を脱臼し、靱帯が切れたため、手術が必要となり、ワールド・ツアーは延期となる。そして4月14日、カリフォルニアで開催されたコーチェラ(コーチェラ・バレー・ミュージック&アート・フェスティバル 2023)の1週目の初日、ブリンク182はサハラ・ステージにサプライズで出演。トム、マーク、トラヴィスの3人によるライブは8年半振りのものとなった。さらにコーチェラの2週目の4月23日、キャンセルとなったフランク・オーシャンの代わりに、メイン・ステージのヘッドライナーとして登場する。非常に盛り上がったこの日のライブは、昔からのファンを熱狂させただけでなく、再びブリンク182の時代が到来したことを強烈に伝えることにもなった。

そして、9月18日、ニュー・アルバムのタイトルが『One More Time...』であること、リリースが10月20日になることを発表。トム、マーク、トラヴィスの3人によるアルバムは『Neighborhoods』以来12年振りである。アルバムからの先行リリースは、現時点では、「EDGING」「ONE MORE TIME」「MORE THAN YOU KNOW」「DANCE WITH ME」「FELL IN LOVE」「YOU DON’T KNOW WHAT YOU’VE GOT」が発表されており、アルバム全体としては全17曲が収録される予定だ。





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