シグリッドが日本で語る強烈な音楽愛、ジブリ映画の影響、ベルゲンで学んだこと

ジブリ映画の影響、ベルゲンで学んだこと

―1stアルバムの『Sucker Punch』はシンセポップを基調としたサウンドでしたが、2ndアルバムの『How To Let Go』ではギターの存在感が増したりして曲調の幅が広がり、シンガーとしてもソングライターとしても大きくステップアップを果たしたように思います。1stアルバムをリリースしてから2ndアルバムまでの間にコロナのパンデミックなどもありましたが、2ndアルバムの制作過程において何か苦労はありましたか?

シグリッド:『Sucker Punch』も『How To Let Go』も誇りに思えるレコードだし、私の違った側面が表現されていると思う。ちなみに日本盤の『How To Let Go』はライブのセットリストを基に、その2枚のいいとこ取りがされているって感じ。

私って飽きっぽい人間だから、いつも違うことをやりたくなっちゃうの。ピアノの前に座ると創造性がとめどなく溢れてくる。確かに『Sucker Punch』はシンセポップが基調だった。そのツアーで本当に沢山のライブを経験したことで、『How To Let Go』はバンド・サウンドが基調になり、成長が感じられる内容になったと思う。そのレコーディング中にコロナのパンデミックになり、何ヶ月も実家に引きこもっていた時期もあった。恐ろしい日々だったけど、両親と再び一緒に生活することができたのは幸運だった。そしてツアーをしていた日々が恋しくなり、また旅行をしたいとも思うようになった。だから『How To Let Go』にはそうしたヘヴィな側面と、グラストンベリーなんかのライブ・フェスを渇望する気持ちが込められていると思う。

『How To Let Go』の制作中はパンデミックによる移動制限があったせいで、大半の作業はデンマークで行われたの。デンマーク人のスライと、ノルウェー人の私とキャロライン・アイリンが(外部との接触を遮断する)「バブル方式」で作業を重ねて曲を作っていった。今から思うと凄く奇妙な時間ではあった。その時に泊まっていたホテルは、客が私1人(笑)。昨年、そのホテルを再び訪れたんだけど、スタッフの人は私をちゃんと覚えていた。「たった1人のお客だったんですよ。そりゃあ覚えてますよ」って(笑)。でも、そんな状況だったせいで、創作に集中できたのも事実。音楽を作り続けることが、私にとっては暗闇に差す一筋の光だったから。

パンデミックは本当に多くのものを変えてしまったし、未来がどうなるのかも全く分からなくなり、本当に怖かった。音楽業界にとっても大打撃だったよね。だから今こうやって再びツアーなんかをできるようになり、色んな人と会えるようになって、自分がどれだけ多くの人に支えられていたのかを改めて実感しているところ。



―ところで、シグリッドさんはスタジオジブリがお好きということですが、そのきっかけは何だったんですか?

シグリッド:12歳頃かな。友達の家のお泊まり会で『千と千尋の神隠し』を観たのがきっかけ。最初はとにかくビックリした。湯婆婆が怖くて(笑)。でも、それと同時に好奇心をかき立てられもした。それまで自分が観てきたアニメとは全く違っていたから。大人も子供もそれぞれ違った形で楽しめる内容だと思う。ジブリ映画で一番好きなのは『ハウルの動く城』。あれはストーリーも音楽も全部が完璧。『思い出のマーニー』も好きだよ。ロンドンで舞台版の『となりのトトロ』を観たりもしてる。

ちなみに、私の曲の「Business Dinners」はジブリ映画から影響を受けているの。あの曲のサウンドエフェクトは私なりのジブリ映画の再現。ジブリ映画は音楽も本当に素晴らしいし。



―「Plot Twist」のミュージックビデオの中でクレア・ベルトンの『ねこのプシーン』を読まれていたのもシグリッドさん自身のチョイスかと思ったのですが違いますか? 「ねこのプシーン」は見た目がトトロっぽいので。

シグリッド:「Plot Twist」のビデオは当時のベルゲンでの私の生活がそのまま映像になっている。私はノルウェーのオーレスンで生まれ育って、高校を卒業した後にベルゲンに出てきた。当時は兄を含む6人の友達とフラットシェアで暮らしていたんだけど、『ねこのプシーン』はその家の本棚にたまたまあった本なの。だから見た目がトトロっぽいとかは関係がない(笑)。

フラットシェアは楽しかったな。家に200人ぐらいを集めてパーティをしたりとか(笑)。もちろん入れ替わり立ち替わりなわけだけど、家はずっとすし詰め状態で。


「Plot Twist」MV、『ねこのプシーン』が出てくるのは1:20〜あたり

―日本だとベルゲンの音楽は「ベルゲン・ウェーヴ」とも称されており、キングス・オブ・コンビニエンスやアニー、ソンドレ・ラルケ、ロイクソップなどが知られています。あなたはベルゲンの音楽シーンに対してどのような印象を抱いていますか?

ベルゲンは最高。私はベルゲンの大学で比較政治学を勉強してて、そこはすぐに中退しちゃったんだけど(笑)、音楽についてはベルゲンで本当に沢山のことを学べたと思う。オーロラとはベルゲンで知り合ったし、キングス・オブ・コンビニエンスやロイクソップのメンバーとも知り合いになれた。ノルウェーにおけるオルタナティブ・ミュージックのメッカって感じ。ベルゲンはノルウェーで最も国際的な音楽都市だと思う。私はベルゲンで切磋琢磨してきたからこそ、もっといいメロディを書かなきゃ、頑張って英語で歌詞を書かなきゃと思うようになった。ベルゲンのミュージシャンは国内だけじゃなくて、海外にも向かって音楽を発信しているという印象がある。だから日本でもオスロよりベルゲンの音楽の方が知られてるんじゃないかな。

ベルゲンには才能豊かなミュージシャンが沢山いるの。私の親友で、私の作品にも参加してくれているアシェル(Askjell)は最高のプロデューサーで最高のソングライター。マティアス・テレスもいいよね。彼がプロデュースしたカックマダファッカもいい。彼がメンバーのヤング・ドリームスは日本で売れたんでしょ? 彼らはテーム・インパラなんかに通じるところがあると思う。じゃあ、ドロップは知ってる? 綴りは「Dråpe」ね。彼らの『Relax/Relapse』は最高のアルバム。グレート・ニュース、チェーン・ウォレットなんかも素晴らしいよ。

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シグリッド
『How To Let It Go (Japan Edition)』
発売中 / 歌詞対訳解説付き価格:2,750円(税込)
再生・購入:https://umj.lnk.to/sigrid_htlgjp

Translated by Kyoko Matsuda

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