M83が語るファンタジー、シューゲイザー、10代の輝きを求め続ける理由

M83のアンソニー・ゴンザレス

「こんなアルバムを待っていた!」M83の最新アルバム『Fantasy』を聴いたとき、心のなかでガッツポーズを決めてしまった。フランスが世界に誇るロマンティスト、アンソニー・ゴンザレスにとっても久々の会心作となったのではないか。

既報の通り、アンソニーは制作時に2005年の名作『Before the Dawn Heals Us』を意識したそうで、初期の代名詞だったエレクトロ・シューゲイザーの轟音とアンビエンス、ダイナミズムが蘇っているのは大きなトピック。さらにそれだけではなく、2008年の『Saturdays = Youth』での美しいメロディと青春のきらめき、2011年の特大ヒット作『Hurry Up, We're Dreaming』における壮大かつドリーミーな世界観、2016年の問題作『Junk』で拡張させたソングライティング、映画スコアや2019年の前作『DSVII』で発揮してきた巧みな音響設計まで、20年のキャリアで培った経験がここには集約されている。

SF映画にも通じる未来的なサウンドスケープを届けてきたアンソニーだが、彼自身はどちらかといえば昔気質のクリエイターで、数字ばかり求められる現代では少なくなった正真正銘の夢追い人でもある。その印象は、2016年の来日時にインタビューしてから7年が経過した今も変わらない。Zoomで話を訊いた。



―『Fantasy』は素晴らしいカムバック作だと思います。「集大成」とも「原点回帰」とも形容できそうですが、自分にとってどんなアルバムになりましたか?

アンソニー:このアルバムは、僕にとっては新しい章となる作品。自分の人間としての進化を感じられるアルバムだからね。僕は20年のキャリアの中でたくさんの経験を積んできた。かなりの時間が経過しているわけだけど、そういう状態の中で、まだ10代の頃の自分とつながっているようなアルバムを作ったんだ。それは、新しい音楽を作るうえでとても良い方法だったんじゃないかなと思う。

―アンソニーさんはこれまでもずっと、「10代の頃の自分」と繋がり続けようとしてきましたよね。『Before The Dawn Heals Us』に収録された名曲「Teen Angst」が象徴的ですが、M83楽曲の大半がティーンの目線で作られていて、青春期特有のエモーションが込められているように思います。

アンソニー:僕にとっては、10代が人生の中で一番良い時期なんだよね。10代の頃は自由で、無邪気で、自分には何も起こらないから大丈夫っていう感じがした。無知だからこそ自分に自信が持てているし、将来への希望ももっていた。大人とは全く違う。だから、10代の時って、今とは違うことを体験できる時期だと思うんだ。10代の頃は、すべてが可能だと思える。だからこそ、あの時期は人生で一番マジカルな時期だと思えるんだよ。自分と自分の周りのすべてがベストに見える。夢ももっているし、すごく可能性に満ちた時期だよね。



―「夢」というのもそうですよね。M83のアルバムにはいつだってファンタジーの要素があったと思います。今回、このタイミングで「Fantasy」と名付けたのは、どういう意図があったのでしょう?

アンソニー:今回は、すごくシンプルで強いものを求めていたんだ。ファンタジーってすごく美しい世界でもあるしね。それに、この世界を作り出すことを可能にしてくれた全ての作品に敬意を表したい。僕は日本のアニメをたくさん見てきたんだ。80年代、フランスではテレビでたくさん日本の素晴らしいアニメの作品が放送されていたんだよ。それは、今の僕の音楽やアートに対するビジョンに大きな影響を与えている。例えば、松本零士の作品とかね。

―アニメといえば、リードシングル「Oceans Niagara」のMVで監督を務めたあなたの兄、ヤン・ゴンザレスさんはビデオの影響源の一つとして、日本のアニメにも言及していました。何か思い当たる作品はありますか?

アンソニー:『宇宙海賊キャプテンハーロック』と『銀河鉄道999』はたくさん観たね。あとは、寺沢武一の『コブラ』もだし、『エヴァンゲリオン』は10代の時には大きな存在だった。その時代のアニメって、現実的なことを語っていたと思うんだ。子供向けの内容でありながら、その中で死や暗いことについても語っている。そして、劇中の素晴らしい音楽の中でも、様々なことが語られていると思う。日本のアニメを幼い頃に体験することができたおかげで、視野を広げることができたんだ。



―「Oceans Niagara」はサウンドも歌詞も実にM83的ですね。どのようなテーマで作られたのでしょう?

アンソニー:歌詞で歌われているように、冒険をして、旅に出て、いろいろなことを経験し、時には想像力を働かせて夢を見続けよう、ということを歌っている。それから、「動くこと」というアイディアも背景にある。音楽を聴きながら走ったり、車を運転してどこかへいったり。動いている時、移動している時は、様々な風景をみることができるよね。この曲を聴いている時は、動くことによって感じられるエネルギーを感じることができるんだ。

Translated by Miho Haraguchi

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