タイラ『TYLA』徹底解説 越境するアマピアノとアフリカンミュージックの新たな地平

総評:クロスオーバーとルーツへのリスペクト

『TYLA』はアマピアノとアフロビーツをベースに超一流のポップミュージックとして昇華した、アフリカンミュージックの地平を広げる可能性を秘めた快作。そしてシンガー/アーティストとしてのタイラの多彩な魅力も十二分に詰まった作品である。

本稿で何度もクロスオーバーという単語を使ってきたが、一言でアマピアノともアフロビーツとも言い切れない楽曲が大半を締めている。

強いていうならナイジェリアのアフロビーツ由来のアマピアノをさらにポップミュージックとして昇華し、南アフリカのタイラが歌っている……というのが一番正確な表現になるだろう。その上R&Bやヒップホップといった他ジャンルの要素も巧みに組み込んだ、新しいサウンドの到来であると思った。

ここで付け加えておくと、アマピアノは家で聴くとラウンジミュージックのようであると誤解されがちだが、クラブなどで大音量で聴くと相当「鳴る」サウンドなので、ぜひ一度現場で体感してもらいたい。家で聴いて培ったアマピアノのイメージを相当揺さぶることになるはずだ。

最後に、ナイジェリアの音楽メディアThe Nativeのアルバムレビューにおける、非常に印象的な一節を引用する。

《世界中のスポットライトと視線を浴びても、タイラは自分自身への純粋さと正統性を保ち続けている。アクセントも変わらず、インタビューやパフォーマンスでは、時折「ヨー」「イー」「アサンベス」といった母国独特の表現が飛び出し、彼女のカリスマ性が光る》

“Asambe!”と叫んだのはアメリカの番組「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」におけるパフォーマンスでの出来事。ズールー語で”let's go”といった掛け声のような意味合いだ。「Water」をパフォーマンスした際の2回目のフック前のブレイク時に叫んでいるので確認してみてほしい。



この一幕に対し、南アフリカの人々はSNS上で喝采の声を送った。タイラが自国のアイデンティティを示す呼びかけに、祖国の人々は歓声を上げたのだ。

アルバムで様々な国とジャンルの音楽のクロスオーバーをしたタイラだが、彼女自身のアイデンティティが南アフリカにあることを示した素晴らしいエピソードだ。こういったルーツに対するリスペクトを示す美しさや強さも彼女の魅力である。

私はこのアルバムをきっかけに多くの人がアフリカンミュージック、そしてその背景にあるカルチャーを愛するきっかけになることを強く願っている。


(※筆者より)タイラのアルバムを聴きこんだあと、さらにアマピアノを聴いてみたいという人のために入門用にプレイリストを作成した。この中の3分前後の曲が大体ナイジェリア由来のアマピアノで、長尺の楽曲が南アフリカのもの。多くはないが日本語で歌うアーティストや、USなどでアマピアノを取り入れた楽曲もいくつか入れておいた。気になったアーティストはぜひとも調べてみてほしい。




タイラ
『TYLA | タイラ』
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audiot909(オーディオットナインオーナイン)
プロデューサー/DJ/ライター。 元々ハウスのDJだったが、2020年からアマピアノ制作に着⼿。 2023年11⽉にリリースした1stフルアルバム『JAPANESE AMAPIANO THE ALBUM』には、あっこゴリラ、荘⼦itらも参加。音楽活動と並⾏して執筆活動や現地プロデューサーへのインタビュー、ラジオ出演など様々なメディアにてアマピアノの魅⼒を発信し続けている。

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