PEAVISが語るラッパーとしての矜持 壮絶な過去を歌い、カラフルな多様性を掲げた理由

Photo by Haruki Horikawa

福岡を拠点に活動するラッパー、PEAVISが新作アルバム『The Blooms Album (Deluxe)』をリリースした。これは昨年リリースしていたEP『Blooms』に新曲やリミックスを追加したもの。ブーンバップやレイジ、ハイパーポップなど、多彩なスタイルに挑みつつ、時には赤裸々な告白も交えたラッパーらしいリリックを聴かせる充実した一枚だ。

しかし、その視点は華やかなライフスタイルや強気な姿勢といった、ヒップホップの王道とは少し異なる方向を向いている。PEAVISの所属レーベル、Peace Treeを主宰するシンガーソングライターでDJのYonYonはこう語る。

「私の中では、ラッパーといえばお金や車など、商業的なことを歌うイメージが強かったんです。海外ではケンドリック・ラマーみたいにコンシャスな内容を歌うアーティストを耳にしますが、自分の身近なところでザ・王道ヒップホップじゃないことを歌っているラッパーはPEAVISくんが初めてでした。生き方はヒップホップなんですけど、リリックはどこか優しさがあって、ほかの人には書けないリリックを書いている。そこを面白いと思って制作をサポートするようになりました」。

今回のアルバムにもその視点の豊かさは表れている。「HOPE」では希望や反戦を歌い、「Colorful」では自由や多様性をトピックに制作。ストリートライフを歌う「City Lights」、音楽の道で生きることの決意を固めるような「Life」や「Do It Again」のような曲も収録している。しかし、どんな曲でもリリックはどこかラッパー然としており、カラフルながら芯は通った印象だ。そのバランスが作品を魅力的なものにしている。

また、カラフルなのはサウンドやコラボレーターの人選も同様だ。starRoやXanseiのような世界的に活躍するプロデューサーを迎える一方、同じ福岡で活動するラッパーのYvngboi Pもフィーチャー。シリアスな内容も多い作品だが、アートワークはポップなものを採用している。この多彩な要素が一つにまとまっている作品は、まさにPEAVISが活動のテーマに掲げる「Peace & Unity」を体現するようなものだ。

そこで今回は、そんなユニークでいてヒップホップマナーを貫く作品を作り上げたPEAVISにインタビュー。ほかのラッパーなら初作品で語りそうなトピックを今歌った理由、そのヒップホップ観などをたっぷりと語ってもらった。


Photo by Haruki Horikawa

―ヒップホップとの出会いは何でしたか?

PEAVIS:入りはスケートボードでしたね。中1の頃だったと思います。当時流行っていた裏原系のカルチャーの影響もデカかったです。APEとかStussy、Supremeとか。中1くらいで本物は買えなかったので、雑誌の後ろの方に載っていたパチモンのBAPEを着たりしていましたね。

初めてラップを認識したのは、多分nobodyknows+の「ココロオドル」。その後に友達が50セントとか映画『8マイル』とかを教えてくれてヒップホップにハマりました。でも、G・ユニットはマッチョすぎてあんまりハマらなかったんですよね。「50セントって人がすごいんだ」みたいな感じではあったんですけど。そこからディプロマッツ(The Diplomats)とかジュエルズ・サンタナとかの当時のメインストリームを聴くようになりました。ジュエルズ・サンタナはめっちゃ好きでしたね。日本だったらメジャーっぽいものよりも、ZEEBRAさんや般若さん、ANARCHYさんみたいなハードコアなラップが好きでした。

その頃はかなりのヘッズで、「学校で一番ヒップホップに詳しいやつ」みたいな感じだったんです。ヤンキーの友達とかもヒップホップ聴いている時代で、別に俺はヤンキーじゃなかったんですけど、ヒップホップに詳しくてリスペクトされていたような感じはします。

―そこからどういう流れでラップを始めたんですか?

PEAVIS:ちょうど「大人になったらバンドとかそういうのやるのかな」と思っていた時にヒップホップに出会ったんですよね。なんか気付いたら自然にやっていました。スケボーもやっていたし、ラップもやっていたし、グラフィティの真似事みたいなこともやっていたんですけど、その中でラップが一番評価されたんですよね。周りから「ラップの才能あるんじゃない?」みたいに言われるようになって、ラップを選んだって感じでしたね。そうやって当時POCKYって名前でラップし始めました。

―影響を受けたラッパーというと、やはり2000年代に活躍していたラッパーになるのでしょうか?

PEAVIS:2000年代のヒップホップはもちろん、90年代の作品からも影響を受けましたね。Nasとかもそうだし、15歳の頃作ったデモ音源は全曲DJプレミアのビートをジャックしたものでした(笑)。でも、2010年代に出てきた自分と同世代のラッパーたちにも衝撃を受けたのを覚えています。マック・ミラーとかタイラー・ザ・クリエイターとか。オッド・フューチャーがカッコつけずに地元の身内ノリでガンガン行っているのを見て、自分も周りのラッパーの友達とクルーを組みました。


Photo by Haruki Horikawa

―今回のアルバムはルーツを見つめ直すようなものと、「音楽の道で生きる」という決意表明のようなものが軸になっていると感じました。PEAVISとして活動を始める前から考えるとキャリアが結構長いと思うのですが、ここに来てそれを改めて歌おうと思ったきっかけが何かあったのでしょうか?

PEAVIS:そうしようとは思っていなかったんですけど、単純にそういうことを考える機会が歳を取って多くなってきたんですよね。あと、この作品を作り始めたくらいからメンタル的に落ちていることが多かったんです。沈んでいる時間が長くて、そういう気持ちで曲を作ったら、内省的な曲が自然と増えていきました。

落ちている時は、音楽を続けるのすらキツいと感じていましたね。でも、自分は本当にラップしかやってきていないから。就職したこともないしバイトもろくに続かないみたいな感じだったので。自分には音楽しかないし、音楽を作ること自体はやっぱり好き。でも、その中で数字を稼がないといけない。そういうプレッシャーがしんどかったんですよね。

自分が音楽活動をしていて一番好きなのは、ビートを聴いてリリックを書いている時なんです。その時間はお金も数字も関係なく、ピュアにやれる。ビートを聴いて自然とそれを吐き出すみたいなことは、ある意味で自己治療みたいな面もあるんですよね。そこまではナチュラルにやれるんですけど、その先に曲をパッケージングして、MV作って、お金がかかって……とか、そういうのがアルバムをずっと出していたら続くわけじゃないですか。それが苦痛になったりする時期もあったんです。

でも、結局は自分には音楽しかないって気持ちが現れて、そういう曲が増えたんだと思います。

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