モビー・グレープは、66年にサンフランシスコで結成された、いかにも「作られた」5人組バンドだった。そんな彼らの67~69年に発売された5枚のアルバムがこの度再発される。デビュー・アルバム『モビー・グレープ』(67年)は傑作。このアルバムは、サイケデリック界の若き才能、スキップ・スペンスが68年に統合失調症を患う前に発表された。その後、レコード会社が5枚のシングルを一気に発売。しかし見事に大ハズレそれ以降、バンドが大成功することはなかった。『モビー・グレープ』の収録曲は13曲だが、総収録時間は31分という短さ。まるでラモーンズのようだ。またこのアルバム1枚が、変化に富んだ内容となっている。メンバーそれぞれが手掛けた楽曲のハーモニーは、甘いものから激烈なのへと変化。「ヘイ・グランマ」のような速い曲もいいし、スペンス作の「オマハ」は、グランジの元祖というような、ハードなガレージ・クラシック・ロックだ。スローな曲は魅力的で美しい。しかし、セカンド・アルバム以降、その輝きは突如失われる。セカンド・アルバム『ワウ(68年)は、ビートルズ『サージェント・ペッパー~』の出来の悪い模造品。4枚目のアルバム『モビー・グレープ'69』(69年)は、楽曲は立派なのに、なぜか野蛮に聴こえる。5枚目のアルバム『トゥルーリー・ファイン・シティズン』(69年)も歌のパートがないだけで、前作と同じ印象を与える。またサード・アルバム『グレープ・ジャム』(68年)のぎこちないインストは、元々『ワウ』のボーナス・ディスクで使用された。  何がモビー・グレープをダメにしたのか? 悪夢のようなマネジメントとスペンスの精神疾患……。そして「アメリカのビートルズ」を狙うも大失敗!という悲惨な経験が原因なのだろう。でもアルバムは永遠に残り、そこには若さの輝きがある。

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