鬼才トレント・レズナーのバンド・ユニット、ナイン・インチ・ネイルズの新作アルバム『イヤー・ゼロ』。これは94年の名アルバム『ダウンワード・スパイラル』以来、最も力強く、風変わりで複雑な構造を持った傑作だ。もはや隠とん生活に入ったのかと思われたところへ突如発表された05年発表のアルバム『ウィズ・ティース』。レズナーは自信喪失気味で、ヒットになりそうな曲を探すのに躍起でもあった。で、ラジオで受けそうな曲で前半が占められ、刺激的な作品は後半に押し込まれている作りに。しかし、その前作がヒットしたこともあって、今作では大胆さを取り戻している。今作は15年先の近未来のアメリカの政治状況を描いているコンセプト・アルバム。その暗く被害妄想的なテーマを描くため、レズナーはシンプルでいて密度の濃いサウンドを作り出した。それはヒップホップのみならず、ロックにも多大な影響を及ぼした80年代末の初期パブリック・エナミーからのインスピレーションを思わせる。テーマ的にもサウンド的にもレズナーがここまで多くを語ったことは、デビュー作以来ではないだろうか。“まだまだ言い足りない”というこの印象は、レズナーの作品にはしばらくなかったイメージであることは確かだ。

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