POP YOURS総括 2年目を迎えたフェスとヒップホップの最前線で目の当たりにした「変化」

BAD HOP、POP YOURSにて

ヒップホップフェスティバル「POP YOURS」が、5月27日(土)と28日(日)、千葉・幕張メッセ国際展示場9〜11ホールで開催された。初開催となった昨年に引き続き、文筆家・ライターのつやちゃんに2日間の模様を振り返ってもらった。

【写真まとめ】「POP YOURS」ライブ写真(全86点)

あまりの盛り上がりに、幾度となく笑いがこみあげてしまった。昨年と違い新型コロナウイルス5類移行後となる開催で、大幅に増やしたというチケットは全てソールドアウト。しかし、観客の数以上に驚いたのは熱量である。BAD HOP、Awichの両ヘッドライナーはもちろんのこと、ralph、あるいはTohjiのパフォーマンスによって起きた地鳴りのような歓声、ぎゅうぎゅうに充満する熱気の凄まじさ。響くビートはドリルありEDMあり、披露されるのはラップあり歌ありダンスあり、とにかくヒップホップを独自に解釈した多種多様な表現が観客の奥底にある感情を引き出し爆発させる。国内ヒップホップの最前線を張るプレイヤーが集まることで、沸々と湧き上がる熱、熱、熱! 果たして今、ユース層がこれだけエモーションを露わにする文化が世の中にどれほどあるだろうか。


BAD HOP(DAY 1)


Awich(DAY 2)

それにしてもPOP YOURSのプロデュース力というのは素晴らしく、開始してたった1年のフェスとはとても思えない信頼感が醸成されつつある。音楽業界関係者と話していても近年多く誕生した国内音楽フェスの中で最も成功した事例だと捉える声が多く、確かに、場づくりやプロモーションに至るまであらゆるコンテンツがシーン全体の活性化に繋がるよう“愛を持って”設計されている点には共感を感じずにはいられない。2021年にヒップホップ・フェスの在り方が世間で厳しく問われた背景を考えると、本フェスが持つ自治力が果たしている功績も大きいのだろう。

運営は昨年の初開催に手ごたえを感じたのか、POP YOURS冠の単発ライブも多数展開するなど年間を通じて次々と攻めの施策を打ってきた。Bonbero、LANA、MFS、Watsonを集めドロップしたテーマ曲「Makuhari」や、Awich、NENE、LANA、MaRIによるサイファー曲「Bad B*tch 美学」など、コアなヒップホップリスナーのツボを突きつつ間口も広げる企画も非常に優れている。ライブでも、その2曲は最大級の熱狂を作り出していた。






POP YOURSで「Makuhari」を披露するBonbero、LANA、MFS、Watson(DAY 1)

さて、POP YOURSが国内ヒップホップ最前線の見本市となっているのであれば、そのパフォーマンスの数々は1年間のシーンの変化を如実に反映したものになるはずだ。では昨年の開催から現在まで、国内ヒップホップを巡ってどのような出来事が起こったか振り返ってみたい。一つに、ジャンル特化の大型イベントが乱立したことが挙げられる。それこそPOP YOURSが先鞭をつける形でTHE HOPEやTOKYO KIDS BADASS VIBES等が続き、サーキットイベントの類いや地方のフェスも生まれた。

同時に、大型イベントを成立させるには多様な音楽性が存在しなければ成り立たないが、その点でこの1年間は様々なジャンルのビート解釈がますます拡大した期間でもあった。ブーンバップ~トラップ~ドリルというメインストリームの音だけでなく、トランスやEDM、ドラムンベース、ポップパンクに至るまでダンサブルで軽やかなサウンドを作り手が希求し、同時にジャージークラブのようなトレンドも勃興。さらには新たなラップの潮流も本格化し、WatsonやCandeeといった面々が即物的なユーモアとともにバネのあるメロディアスなラップを畳みかけ、次世代スターの最右翼に躍り出た。

そして、ヒップホップの“Unity”に想いを馳せる出来事も起こった。KANDYTOWNの解散である。ちょうど今回のPOP YOURSでもBAD HOPが解散を宣言したが、いよいよ2010年代から続くヒップホップの大所帯クルーが散り散りになりはじめている。本稿では、以上を「2年目を迎えたヒップホップ大型フェス」「多彩な音楽性とビートの希求」「新たなモードに突入したラップ技法」「仲間とのつながり=Unity」というトピックスにまとめた上で、今回のPOP YOURSを総括していきたい。

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