Summer Eye夏目知幸が語る人生の再出発、シャムキャッツ解散から『大吉』までの日々

Summer Eye・夏目知幸(Photo by Yoko Kusano)

 
「くだらない。結構かっこいい。軽めだ」ーー本名を英語にした新名義をひらめいたとき、夏目知幸はそう思った。シャムキャッツ解散後、ビンテージ電子楽器やプログラミングを駆使した完全DIYでの制作をスタート。2021年12月のソロデビュー以来、独創的な楽曲を送り出してきた彼が、渾身の1stアルバム『大吉』を完成させた。ポジティブ&ダンサブルな新境地を開拓している夏目だが、ここまでの道のりは苦難の連続だったという。Summer Eye名義での初インタビューをお届けする。


くたびれた男のポジティブな歌

―どうですか、今の心境は。

夏目:ソロのアルバムが出るって話をするとみんな喜んでくれるから、明るい気持ちでいれてる。それとこの間、渋谷から新代田までなんとなく歩いたの。で、えるえふる(レコード店を併設した立ち飲み居酒屋)を通ったら、MUSIC FROM THE MARSの藤井(友信)さんやLOSTAGEの​​五味(岳久)さんとかがいて奢ってもらったんだけど、その時に年齢を聞かれてさ。「夏目ももう37歳になったか」って感じでくるかと思ったら、「まだ40歳じゃないの? チクショウ、何でもできるじゃん!」みたいに扱ってもらえて。

―やさしい先輩(笑)。

夏目:そこでそういう話ができたのも自分が色々とやってきた結果だろうし、これからもやっていくしかないなって。何はともあれアルバムが完成して世に出すわけで、きっと何かポジティブなものに繋がっていくんだろうなっていうマインドが今はセットされている。

―でも実際、仕切り直しのタイミングで年齢というのは意識した?

夏目:全く気にしていない自分もいるんだよね。勝手に数字が増えていってるだけで、考え方とかも根本的には変わってないと思うし。ただ、大学を出てから10年間バンドをやって、終わった時にはもう35歳だったわけ。だから、もう1回音楽をやるのかどうかっていうのはすごく考えた。

―そこまで?

夏目:うん。バンドが終わってとりあえず1年間はゆっくり考えようと思ってたんだけど、その時は音楽以外の仕事をする選択肢も普通にあった。ある程度は満足したというか、もちろん商業的な成功は得られなかった……と言ったらおかしいな。一応音楽だけで食ってはいたから。

―大成功でしょう、あんなに愛されたんだし。

夏目:バンドがやりたくてさ、始めるじゃん? で、バンドが持つプリミティブな輝きみたいなものは体験できた。それに、俺にとってライブで一番大事なのは、大きい会場に何人入れるかじゃなくて、「今後の人生が変わるかも」みたいな体験ってあったりするじゃん? 自分たちの演奏によって、そういう夜をいくつもギブすることができた。しかも、日本だけじゃなくて海外で、言葉が通じなくてもそういったことができる実感も得られた。そういう意味では、テッペンを見たような感覚はあったの。「次はどうしよう?」となった時に、やり足りないことはなかったと言えばなかったんだよね。でも、それだと困るじゃん? 長いんだよ、人生はまだ。

―本当にね。

夏目:「この先まだ結構あるな、じゃあ何する?」となって、ゆっくり考えたんだけど……考えれば考えるほど淘汰されていくんだよね。自分のやりたいこと、やれることが。そもそもバンドを選んだのも、自分が選んだというよりも、それしかなかったんだろうなってことに気づいて。じゃあもう一回、今度は自分だけでやってみようと。


Photo by Yoko Kusano

―ソロになってからホームページで日記をつけてるよね。遡ると一番初めは2021年3月24日で、「10年やったバンドが去年終わって、それからちょっと休んだ。音楽のことは一旦あまり考えられなかったから、他のことをやりながら生活した」と書いてあった。

夏目:日記を書き始めた時が精神的にはスタート、何かをやらなければと思ったスタートだった。それまではシンプルに疲れていた。自分がやってきたことにも疲れていたし、どういう音楽が好きだったかも忘れかけていた。だから休んだっていう感じかな。

―シャムキャッツの解散発表が2020年6月30日だったから、約8カ月後の再出発だったと。その頃にはすでに、Summer Eyeとしてのコンセプトもぼんやり見えていた?

夏目:今のサウンドとか、概念としては思いついていたかも。Summer Eyeでやっているのは、改めて自分が好きなことや言いたいことを整理して、それらをシンプルにまとめた感じというか。逆説的に言うと、「やりたくないこと」をいかにやらないようにするか。例えば、普通の8ビートはもうやりたくないとか。フォークはもうやりたくない、でも歌いたいとか。あと、日本のライブは発表会みたいになっちゃってる気がして、「演者をお客さんが観てる」みたいな空気はもう作りたくないとか。そうやって点在していたものが、だんだん沈殿してきてまとまるのに1年近くかかった。

―そこの落とし所を見つけるのは時間がかかりそう。

夏目:かかったね。言葉ではイメージできてたの。リズムマシンを使ってドラムを鳴らして、メジャーでもマイナーでもないコード感で、くたびれた男がポジティブなことを歌うーーもう一度動き始めた時に、こういう感じだろうなっていうのは浮かんでた。でも具体的な形になるまで、そこからかなり時間がかかった。

―「くたびれた男」っていうのはいいね。実人生に基づく部分がもちろん大きいんだろうけど、今の世の中にそういう音楽は見当たらないから。

夏目:「とほほ……」みたいな感情というか。そういう歌があってもいいと思うし、なんか社会的なことって言いたくないんだよね。「もう俺には社会のことがわからん!」と思ったことが、Summer Eyeをやり始めたきっかけでもあって。

―というと?

夏目:バンドをやってた時は、なんとなく自分の中に「社会は今こういうふうに動いている」っていう想定があって、それに対して音楽で批評めいたものを出していくっていうスタイルで曲を作ったり、バンドを動かしていたと思う。でも、それは4人という集団だったからバランスが取れていたのであって、1人になったら世の中っていうものが全くわからなくなった。自分もただの参加者の1人でしかないっていうか。だったらもう、とにかく自分のことを歌えばいいじゃないかってテンションになって。

特に、ヘテロセクシュアルの男性が今言えることってあんまりないんだよ。これまでの社会はそれでずっとポップスとか作られてきたけど、もう残ってないわけ。だから、そのテンションで俺に歌えることはもうないんだよね。

シャムキャッツ解散発表の直後にインタビューした時も、「とにかく男性は一度、何も言えなくなるまでコテンパンにやられた方がいい」と言ってたよね。

夏目:そうそう。だから俺にできることはただ一つ。そのコテンパンにやられて疲れた男が、それでも何かを信じている様を見せたいんだよね。その先も生きていかないといけないわけだから。

 
 
 
 

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