ペイヴメントが語るバンドの軌跡とそれぞれの人生、ギャリー・ヤングの今、新作の可能性

ペイヴメント(Photo by Hirohisa Nakano)

 
2度目の再結成を果たし、今年2月中旬に13年ぶりの単独来日ツアーを開催したペイヴメント(Pavement)にインタビューを実施。愛すべき5人にバンドの過去・現在・未来を語ってもらった。

【写真ギャラリー】1993年と2023年のペイヴメント(全10点)

東京公演の初日、終演後のTOKYO DOME CITY HALLは多幸感に満ち溢れていた。軽快なステップも交えつつギターを鳴らすスティーヴン・マルクマス。自由を体現するように叫び、暴れ回るボブ・ナスタノヴィッチ。「スパイラル・ステアーズ」ことスコット・カンバーグの見せ場もあったし、マーク・イボルドとスティーヴ・ウェストのリズム隊は相変わらず絶妙だ。ゆるくて笑えるのに泣ける、このフィーリングは誰にも真似できない。ペイヴメントとは生き様そのもの、人生そのものだと改めて思い知らせるステージだった。

それに何より、2010年の前回再結成よりもムードがいい。ペイヴメントはいつでも気軽に再結成するわけではないし(2015年の時点ではマルクマスが拒否)、今回も期間限定であることをみんな知っている。だからこそ、バンド側も束の間の「同窓会」を全力で楽しもうとしているのが伝わってきた。日によって大きく変わるセットリストからもそれは明らかで、「新作を出さない再結成」がここまでポジティブに感じられるのも珍しい。

会場には13年前もそうだったように、90年代オルタナを懐かしむ世代だけでなく、20代前後と思しき若いオーディエンスも大勢詰めかけていた。今日ではシングルB面曲だった「Harness Your Hopes」がTikTok経由で最大の人気曲となり、バンドの楽曲を基にしたミュージカル作品が上演され、ペイヴメントはZ世代からも熱烈な支持を集めている。マルクマスは昨年、英ガーディアン誌にこう語った。「もし戻ってくるなら、今が絶好のタイミングだという確信があった。もし君が内向的で、スケートボードを持っているのに得意でなくて、世の中を少しでも疑っているなら、僕らの音楽から何かを見つけられるかもしれない」

以下のインタビューは、東京公演2日目の午前中に行われたもの。饒舌なのはマルクマスとボブで、前者のニヒルな語り口、後者のひょうきんなユーモアは健在だ。還暦を迎えたマークの物腰は柔らかく、スコットは引き締まった表情を浮かべ、スティーヴは二日酔いだったのか途中で寝てしまった。取材部屋の外にいたメンバーの娘さんは、このあと東京観光に連れて行ってもらうのが待ちきれない様子。素敵な未来を満喫中の5人に、1993年の初来日から1999年の解散、2023年の今に至るまで大いに語ってもらった。


左からボブ、マーク、スコット、スティーヴ、マルクマス(Photo by Hirohisa Nakano)


―マルクマスさんは最近、テニスに打ち込んでいるそうですね。日本のレーベルスタッフにコートを手配してもらったと聞きました。

マルクマス:うん、テニスのスポーツセンターに行くんだ。日本にはニシオカっていう素晴らしい選手がいるよね?

―なんでまたテニスにハマったんですか?

マルクマス:10代の頃に好きになったんだ。パンデミック中で外出できなくなって退屈だったから、パートナーがやろうって言いだしたのがきっかけで。東京もニューヨークも、とにかくみんな家にいなきゃならなかっただろ。日本はもう少し規制が緩かったのかな?

スティーヴ:オリンピックも開催してたから。

マルクマス:ああ、そうか(笑)。


マルクマスとボブがテニスに興じている動画

―他のみなさんは、何か日本でやりましたか?

スコット:妻と娘も来てるんだ。1週間くらい滞在している。到着した翌日に雪景色を見れたのは良かったな。

マルクマス:K-POPのコンサートにみんなで行ってただろ。BTSほど有名じゃないけど……。

スコット:Stray Kidsだよね。今では有名なボーイズバンドだ。彼らにとって2回目のツアーだったみたいだけど、パーフェクトな環境だったと思う。

スティーヴ:ボブと僕はまだ日本に着いたばかりなんだ。今のところ、天気も良くないし。

ボブ:ああ、渋谷をちょっと散歩したくらい。

マーク:前に自転車で東京を散歩したことがあって、とても良かったよ。たしか渋谷、中目黒、代官山、恵比寿の辺りだったかな。


2023年2月15日、TOKYO DOME CITY HALLにて(Photo by Kobayashi Kazma)

―昨夜(2月15日)はペイヴメントにとって2023年の初ライブですよね。まずは感想を聞かせてください。

スコット:そうだな……僕らのライブはいつも最初から完璧なんだけど、昨夜を評価するとしたら……もう少しで完璧ってところだったかな。今夜のライブは100点になるはずだ。

マルクマス:曲はうまくいったけど、何曲かは最初のライブだったからテンポがちょっと不安定だったかもしれない。「​​Stereo」「Fight This Generation」「We Dance」「Grounded」あたりは「フゥー!」となったりもした。環境に対する緊張もあったね。

スコット:あと、技術的な面でも。

ボブ:ああ。去年も同じ規模感の大きなステージで演奏したけど、何曲かは今回の方がうまくいった。観客の人数に関係なく、みんなに届いたと思う。広さに関して言えば、ベルリンでのライブを思い出したな(昨年11月に出演した独・テンポドロームと思われる)。

マルクマス:昨夜はとても良い会場だったね。綺麗でサウンド面も素晴らしかったし、全てにおいてハイクオリティだった。

ボブ:1993年の日本でのライブと比べると、音は全体的に良くなってると思う。


Photo by Kobayashi Kazma

―昨夜の感想をリサーチしたら、特にペイヴメントを初めて観たファンは、ボブが自由に動き回る姿に感激していたみたいです。

ボブ:自由に動き回れる曲がたくさんあるんだ。

マルクマス:僕らをスポーツチーム、例えばバスケットボールのチームだと仮定しよう。ボブはチームのエネルギーを高めるような役割なんだ。スコアが同点の場面で、彼が点数を入れてみんなを盛り上げる。「ウオーッ!」てね。

ボブ:いや、もっと自由な感じだよ。

マルクマス:彼はどこからでも自由にシュートを打つ感じだ。

ボブ:興奮が湧き上がってくる様子を見たいんだ。パンデミックでここ2〜3年はライブが自粛されていた。だから、みんながライブで楽しんで笑顔になっているところや、一緒に歌っている様子を見たい。とても熱狂的で僕らの気持ちを高揚させてくれるファンもいれば、静かに曲に集中しているファンもいる。みんながそれぞれの形で、僕らの音楽を楽しんでくれている様子を見るのが好きなんだ。

マルクマス:全体的には僕らのバンドはエモ、ロマンスと認識されていると思うけど、中には滑稽で笑える部分を持ち合わせている曲もある。特にライブのパフォーマンスではね。彼がその立役者なんだ。他のバンドにはあまりない一面だと思うよ。

Translated by Emi AokiEmi, Natsumi Ueda

 
 
 
 

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