BIGYUKI、石若駿と探る「AI×即興」の可能性 新しい音楽イベント『Craft Alive』総括

BIGYUKIと石若駿の共演

「即興音楽における人間とAIの共創」をテーマにした、Dentsu Craft Tokyo主催のイベント『Craft Alive』が昨年12月に代官山UNITで開催。BIGYUKI、石若駿らが出演し、AIとライブパフォーマンスを融合させた新しい音楽体験に挑んだ。当日の模様をジャズ評論家・柳樂光隆がレポート。



『Craft Alive』は「AI x Live Performance」を掲げたイベントだ。AIとのセッションは近年よく見かけるようになってきたが、今回の企画がユニークだったのはBIGYUKI、石若駿という日本を代表する2人の演奏家がAIと演奏するだけでなく、それぞれが異なるAIと共演したところにある。

石若は山口情報芸術センター[YCAM]とのコラボレーションによるパフォーマンス「Echoes for unknown egos」。AIは石若の演奏を学習し、それを実際にドラムを叩くという形で出力する。石若の目の前にもう一台のドラムセットが置かれていて、それぞれの太鼓やシンバルにはAIがコントロールする機械が備え付けられており、石若の打音そっくりにドラムを物理的に叩く(本当に似ている!)。石若の演奏に合わせて、彼の演奏を学習したAIが実際にドラムセットを鳴らす、いわば「自分自身との共演」というアイデアが根底にある。

さらに、このAIにはもう一つ興味深いレイヤーがある。石若駿のフレーズや音色の癖を学習させたAIだけでなく、石若が即興演奏を行う際の演奏の流れも別のAIに学習させることで、石若の演奏の癖を掴むだけでなく、インプロビゼーションの構成や展開の傾向をも掴もうとしているのだ。

AIは石若の演奏を聴き取りながら、彼の演奏に反応するようにドラムを叩く。目の前で物理的にドラムセットの音が鳴ること、そして、自分の即興演奏を学習したAIが“石若駿の即興演奏の抽象性”を演奏することで、石若自身のパフォーマンスも刺激される。石若の抽象的な演奏を学習したAIが発する、不意で不規則にも感じられる演奏は、お互いの調和を拒むように機能していた。つかず離れず、合っているような合ってないような感じでセッションは進む。ただし、それは形式としての「フリーインプロビゼーション」という観点では上手くハマっていたと思う。


石若駿


石若駿

一方で、BIGYUKIが共演した「Neutone」は、石若の「Echoes for unknown egos」と全く性質が異なるものだ。開発者であるQosmo代表・徳井直生はこのように説明している。

「『Neutone』はAIを使ったリアルタイムのオーディオ処理をするプラグインで、目玉は音色変換です。Netoneに入ってきた音色を何か別の音色にリアルタイムに変換できます。例えば、バイオリンの音を学習させれば、入ってきた音を何でもバイオリンに変換できます。ノイズが多い音が入ってくれば、その音の特徴を掴んでバイオリンの弦を擦るような音を出したりもできます。そういった細かいことを汲み取って音色変換をすることができます」


徳井直生は石若・BIGYUKIの前に出演、最新のリアルタイム音響合成AIを使って進化したAI DJパフォーマンス「AI Generative Live Set」を披露した

今回のイベントでは、「Neutone」にBIGYUKIの声を3時間ほど学習させ、BIGYUKIの声に変換されたサウンドがBIGYUKIの演奏と共演する形でセッションが行われた。また後半では、徳井の手がけたドラム・ジェネレーターが自動生成するビートとBIGYUKIの共演も行われた。

ここで面白かったのは、「Neutone」のサウンドや、ドラム・ジェネレーターが生成したビートが、BIGYUKIの生演奏とかなり調和が取れていたことだ。

「Neutone」から出る音はBIGYUKIの声を用いているから不思議と繋がりが感じられたし、BIGYUKIが普段からビート主体の音楽に取り組んでいることもあり、AIが生成したビートが放り込まれても、彼はごく自然にパフォーマンスを行っていた。


BIGYUKI


BIGYUKI

BIGYUKIが近年行っているソロ・パフォーマンスは、自分ひとりで全てを構築できる作家性をアピールする代わりに、他者が介在しないため、持ち前のフレキシブルな即興性を発揮しづらかった。そこに今回、AIという不確定要素が加わることで反応の速さが遺憾なく発揮され、明らかに音楽の在り方も変わり、本人ものびのびと演奏しているように映った。

そういう意味で、「Neutone」を交えたBIGYUKIの演奏は、確実に「ライブ」であり「セッション」だったと思う。ただし、それはソロでもデュオとも違う、一人と二人の間にある何かと言うべきものだった。


BIGYUKIのパフォーマンス中、「Neutone」の信号を受けてオーディオリアクティブなVJ演出を行うDentsu Craft Tokyoエンジニアチーム

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