XTCのテリー・チェンバースが明かす、名曲を支えたドラム秘話と「EXTC」結成の真意

テリー・チェンバース(Photo by Shiho Sasaki)

XTCのオリジナル・ドラマーであるテリー・チェンバーズ(Terry Chambers)が、アンディ・パートリッジ公認/命名のトリビュート・バンド「EXTC」を率いて1月に来日。約2時間のステージで名曲を惜しみなく披露し、各会場を大いに沸かせた。

本家は1982年にライブ活動休止、2006年に実質解散しており、最初で最後の来日公演は1979年まで遡る。テリーにとって44年ぶり(!)となる日本でのライブは、ファンは言うまでもないとして、彼にとっても夢のようなひとときだったに違いない。即完売となった1月8日の初日・高円寺HIGH、アンコールで「テリー!」の合唱が巻き起こったとき、なんとも照れくさそうな主役の表情に、シャイで真面目な人柄を垣間見た気がした。

テリーはXTCがスタジオ職人集団になる前、ニューウェイブと並走しながらギター・バンドとして覚醒していった初期の重要メンバーだ。弾力性と疾走感を兼ね備え、余白を活かしたタイトな演奏を持ち味としつつ、プレイヤーとしてのエゴは希薄で、楽曲が求めれば屈折したリズムパターンも叩いてみせる。当時の理想的なドラミングを体現していたテリーは、ライブ・バンドとしての絶頂期を支え、ライブ活動の終焉をきっかけに脱退するという、生粋のパフォーマーでもあった。

その後はオーストラリアに移住し、音楽シーンの第一線から退いたはずの彼が、アンディやコリン・モールディング、デイヴ・グレゴリーの代わりにXTCのレガシーを受け継ぐなんて、いったい誰が想像できただろうか。さらに驚いたのは、テリーが何度もスティックを回しながら、名盤『Black Sea』における「あの音」で叩いていたこと。67歳とは思えぬ演奏の切れ味は、ただノスタルジックなだけではない、EXTCの本気ぶりを物語っている。

今回のインタビューは、来日ツアー最終日となった1月12日の昼に実施したもの。滞在先のホテルで合流すると、ハンサムな老紳士は1時間に及ぶ取材で、EXTC結成の経緯、ドラマーとしてのルーツ、XTCの秘蔵エピソードまでたっぷり語ってくれた。その一部始終をノーカットで前後編にわたってお届けする。まずは前編をどうぞ。


EXTCのプロモーション映像

「EXTC」結成の真意

―XTC唯一の来日公演は1979年8月に開催。テリーさんが日本を訪れたのはそれ以来だと伺っています。

テリー:前回来た時は一生に一度のことだと思っていたけど、こうやって44年も経った今、再び来られているのだから驚きだよ。この国は素晴らしい場所だから戻ってこられてとても嬉しく思うね。ロンドンやニューヨークと比べても別世界だし、他者に対する敬意がある。欧米人は日本の人々と文化から学ぶべきことがたくさんあるよ。

―EXTCとして、日本でライブを行なった感想を聞かせてください。

テリー:うまい具合にやれたね。11月のアメリカツアー以来、久々のショウだったからスムーズとはいかなかったところもあるけど、(昨年のツアー中に)メンバーを一人失ったので、そのためにリハーサルをしっかりやってきたというのもある。京都でのライブはまだ観客数の制限があったみたいだけど、それでもソールドアウトに近かったらしくて非常にハッピーだよ。東京以外の場所って必ずしも海外のバンドがプレイしに行くわけじゃないから、京都のオーディエンスも喜んでくれたんじゃないかな。機会があれば他の都市でもプレイできたらと思うよ。


2023年1月10日、京都・磔磔にて。アンコールの最後に披露された「Life Begins at the Hop」では、サポートアクトを務めたThe Mayflowersが飛び入り参加。 里山理(Vo, Gt)はアンディ・パートリッジが弾く中盤のギターソロを完コピしている。

―XTCの曲はずっとライブで演奏されてこなかったわけで、あんなに生で楽しめるなんて夢みたいでした。テリーさんもEXTCを始めるにあたり、そのことは意識していたのでしょうか。

テリー:そうだね。もともと僕はコリン(・モールディング)とTC&Iというデュオでプレイしていた(2017年に始動)。もう動き出すことはないだろうと思っていたことが、再びやり直せるようになったのは素晴らしかった。その後、コリンがEP(TC&IのデビューEP『Great Aspirations』)の収録曲以外もプレイすることを提案して、「ライブ活動をしなくなってからのXTCの曲をプレイしたらどんなリアクションになるかな?」と言ってきたんだ。かなり勇敢でエキサイティングなことだと思ったよ(笑)。

どれだけの人が興味を持ってくれるのか分からなかったので、スウィンドンの小さなシアターで4回プレイすることにしたのだけど、すぐにソールドアウトしたから2日間の追加公演も行った。コリンはもう満足したのかそこで離れることになったけど、あまりにも楽しくてぜひ続けるべきだと僕は思い、EXTCとして歩むことにしたんだ。


EXTC 左からスティーヴ・ハンプトン(Vo, Gt)、マット・ヒューズ(Ba, Vo)、テリー・チェンバース(Dr)

―セットリストも絶妙でした。『Black Sea』と『Skylarking』の収録曲が特に多かったですが、どのように組み立てたのでしょう?

テリー:そもそもXTCは4ピースだったけど、3ピースでもそのエッセンスを出せる曲をプレイすることにした。それでも、原曲にはストリングスやキーボードが存在していたものもあったので、それらをロックバンドのバージョンでプレイしたというべきだね。3ピースで不可能なものは不可能なわけで、きちんとできたかどうかは観た人にジャッジしてもらいたい(笑)。他にも候補曲はあったけど、複雑すぎて3ピースだとチャレンジしても形にならない曲もあったんだ。


EXTC来日公演セットリスト(3公演とも共通)を再現したプレイリスト。19曲目「Senses Working Overtime」からアンコール、20曲目「Stupidly Happy」(『Wasp Star』収録)はストリーミング未解禁。『Black Sea』から6曲、『Skylarking』から4曲が選ばれている。

―テリーさんが『Skylarking』の収録曲や「The Mayor Of Simpleton」など、ご自身が脱退したあとのXTC楽曲を演奏していたのも感慨深かったです。

テリー:もし僕が在籍していた時代の曲だけをプレイしていたら、それはXTCというバンドをしっかりと伝えたことにはならないと思ったんだ。僕たちがライブ活動を止めた1982年の時点で、まだ生まれていなかったファンもたくさんいるだろう? それで話し合った結果、『Skylarking』や『Oranges & Lemons』の頃も含めたキャリア後期の曲に、初期の曲よりも好まれているものもあるとなった。やってみたら悪くなかったし、多くの人々にとって魅力的なものにしたかったからやることにしたんだ。

ただ、『Go 2』だけはバリー・アンドリュースの鍵盤に強く依存していて、やらなくても2時間弱のライブをこなせるからセットリストに入れなくていいんじゃないかとなった。「The Mayor Of Simpleton」「Love on a Farmboy’s Wages」「Making Plans for Nigel」といった誰もが知る曲を削りたくなくて、不可欠な曲を並べていったらもうほとんど曲数が埋まってしまったんだ(笑)。それでも自分たちをフレッシュな状態にさせるために、ときおりセットリストを組み直してきたけどね。

Translated by Tommy Molly

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE