ドミ&JD・ベック、超絶テクニックの新星が語る「究極の練習法と演奏論」

 
メンターたちとの交流、練習とクリエイティブの関係

―今更ですけど、『NOT TiGHT』でアンダーソン・パークは、プロデューサーとしてどんな役割を果たしたんですか?

ドミ:いわゆるプロデューサーではなかったかな。プロデューサーっていうと、パソコンの後ろに座ってセッションをプロデュースしているものだけど、そういうことはまったくなくて、彼はメンターだった。彼の家に滞在していたんだけど、毎晩友人として様子を見に来てくれたって感じ。

JD:1年間限定のお母さんのような存在だった。食事も用意してくれたし。

ドミ:彼は音を変えようとすることなく、私たちのベストを引き出してくれた。

JD:多くの人がやりたがらないレベルで追い込んでくれたんだ。他のみんなは僕たちの音楽について気を遣って話してくれるけど、彼はそうじゃなかった。最初からそれが気に入ったし、「彼は気に入らないかも」と思うときもあったけど、それも含めて全てを曝け出せるくらい心を許せたんだ。

ドミ:彼は真摯な意見を言ってくれた。最近ではなかなかないこと。「いいアルバムだね」「ライブ良かったよ、演奏良かったよ」ってみんな上っ面の感想を言うなか、彼は常に正直でいてくれた。だからこそ私たちのベストを引き出してくれた。

JD:何かを変えるように言ってきたことはなかったけど、常に僕たちが何をやろうとしているか理解してくれて、それが純粋なまま確実にできるように僕たちを極限まで追い込んでくれた。本当に疲れたもんね。

ドミ:それから彼のおかげで、スヌープやハービー・ハンコックとの共演が実現したことも重要だよね。



―サンダーキャットはベース奏者であり、ボーカリストであり、作曲家です。彼の音楽は彼自身の演奏が重要な要素になっていて、そのうえでどこかポップで聴いていて楽しい。その点ではドミ&JD・ベックのインスピレーションの一つなのかなと。

JD:僕たちに大きく影響を与えた、数少ないミュージシャンの一人じゃないかな。僕たちと楽器こそ違うけど、それぞれの音楽を通して達成しようとしていることは一緒で、習ったことの先を行って自分らしいものを作ろうとしているんだと思う。このご時世に、そういう存在はとても珍しいよね。本当にとても仲良くなって、メンターというか……二人目のお母さんになったね。

ドミ:演奏もできるし、キャッチーだけど非常に難しい曲を書くことのできる珍しいミュージシャンの一人。そんな人はなかなかいない。ジャズ奏者ってクレイジーな演奏はできるけど、曲は書けない人も少なくない。逆に、ポップ/R&Bのミュージシャンは演奏がそこそこだったりする。だから彼は、完璧な演奏をして完璧な曲を書ける最高のハイブリッド。それは自分たちがめざすところでもある。



2020年、アリアナ・グランデとサンダーキャットの共演動画に2人も参加

―では、ルイス・コールはどうですか?

JD:まさしく彼もそういうタイプ。サンダーキャットやアンディ(アンダーソン・パーク)もそうだけど、僕たちのメンターは大体みんな同じくらいの年齢なんだ。ルイスは自分らしさを貫いているドラマーで、僕にものすごくインスピレーションを与えてくれる。それに曲を書く数少ないドラマーの一人でもあるよね。僕自身もそうだけど、そういう人はなかなか見かけない。そういう意味では、「自分はドラマーなんだ」っていう枠から飛び出る勇気も与えてくれた。僕はドラマーだけど、自分のことをドラマーだとは思っていない。彼がいてくれたおかげでね。



―先ほども「僕らはかなり努力してきた」と話してましたが、たくさん練習して、かっこいい音楽を作ってる姿をドミ&JD・ベックが見せているのは、若いプレイヤーにとって最高のメッセージになっていると思います。練習や研究することとクリエイティブの関係について、お二人が思っていることを聞かせてください。

JD:練習と研究はたくさんの事を学ぶという幅広い部分で大事だと思う。若いミュージシャンとして一番大事なのは自分自身を研究することであり、自分のコンフォートゾーンから抜け出すために練習すること。そして、自分がやりたいことを学んで、自分らしい「何か」を見出していくことだと思う。「巨匠を学べ」とか「これを勉強しないと」っていうのはよく言われるけど、このことはあまり強調されていないように思うからね。

ドミ:「みんなが何万回もラジオで聴いてきたような曲を書け」とかね。

JD:そう! 僕らは出逢ってからずっと練習してきて……そうそう、僕たちが自分たちの楽器で曲づくりしていないもう一つの理由は、自分たちの「手」から生まれるものではなく「頭」から生まれるものを練習したいからだと思う。それって全く違うことなんだよ。今、自分がドラムで演奏できないリックが20個くらい思いつくけど、それが学べれば最高の練習になるよね。

ドミ:練習のやり方は2つある。練習時間を積み上げる方法もあるけど、それでは深いところまではいけない。5時間の長いセッションをやるより、一つのことに集中して10分練習する方がいいこともある。長くやりすぎると身体も脳も疲れて、自分たちのやっているかに耳を傾けなくなるから前進していなかったりする。

何年練習しても上手くならないこともある。それでも、若いミュージシャンは本当にたくさん練習しなければいけない。ひたすら努力して、できる限り最高の高い技術を得なければならない。それは自分が達成したいことの役に立つから。「プロデュースできます、楽器もいくつかちょっと演奏できます」みたいな人が最近よくいるけど、深く突き詰めなければ自分に苛立ちが募ってくるし、自分の能力を最高レベルまで発揮できない。だから練習して技術的にある程度高いところまで行って、自分が作りたいものを作れる自由を手に入れないとね。

JD:効率的に練習をしないと。僕はもっと若かった時、一回数時間の練習をしていたけど、ドミと出逢ってからは1日1時間以上は練習してないよ。

ドミ:私も。

JD:練習するときは200%で練習して、結果を手に入れるためにものすごく集中して、できる限りのベストを尽くしているからだと思うんだ。

ドミ:ゴールがあるからね。

JD:そうそう、ゴールがあることが重要なんだ。「10時間練習しているよ!」って言う人もいるけど、その10時間で何を達成しているの?って思うね。

ドミ:必要なのは目標、耳、集中するための脳、そして技術を手に入れながら自分のサウンドを見つけ出すこと。それが全部達成できれば、いいところまでいけるんじゃないかな。

JD:脳も訓練しないとね。音楽の全てが肉体的にできるわけではないし、自分が聴きたいもの、脳が何をやりたいかにかかっている部分もあって、それはそれで練習できること。

ドミ:ルイスだってそうでしょう。(ドラムだけでなく)キーボードもベースもギターも演奏できるし、それぞれの専門ではないのに、誰よりもキーボードが上手い。それは彼にフィーリングがあって、ゴールがあって、演奏することで何がほしいのかわかっているから。自分の脳にあるものをどうやって楽器で実行できるかわかっている。楽器はただの楽器ではなくて、頭の中で描いているものを達成するための道具だということ。だから、何を手に入れたいかわかったうえで演奏するべきだと思う。それこそが最高の練習方法じゃないかな。




ドミ&JD・ベック
『NOT TiGHT』
発売中
再生・購入:https://domi-jdbeck.lnk.to/NOTTiGHT

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