ドミ&JD・ベック、超絶テクニックの新星が語る「究極の練習法と演奏論」

 
2人が明かす独自の演奏論

―ドミさんは以前から、名演奏をトランスクライブ(採譜)してコピーする動画をYouTubeに上げていました。譜面に起こしてからそれを演奏することから、どんなことが学べるのでしょうか?

ドミ:トランスクリプションをする過程がそれぞれ違うことを教えてくれる。音符を紙やパソコンに起こすわけだけれど、その作業だけでもとても面白い。自分の耳を使って学ぶことだから。本当にスーパークレイジーでクールな耳の訓練。それが一段階目。

それから今度は演奏を学ぶ中で、ソロによって技術を磨かなければいけない。で、それを練習すればするほどわかることがある。例えば、移調があったりすると、そういうのが私を特徴づける部分になる。そこでのソロを本当の意味で自分のものにできれば、その部分をインプロできるようになるし、それをもとにさらなる語彙に発展させることができる。同じリック(短い定型フレーズ)だけでインプロをやっていくよりもね。ちなみに私はリックって言葉が大嫌い。使うべきじゃなかったね。

ソロを学ぶことで自分の語彙が広がって、より自由が得られる。つまり、まずは耳、次が技術を学んで磨くこと、そして最後、私にとって一番大切なのは自由と色々な可能性を学ぶこと。そして、ここでもやっぱり筋肉の記憶力と闘わないといけないと思う。でないと同じものを何度も何度も繰り返し演奏することになっちゃって、最終的にはインプロでなくなるから。そのようなことを学んでいるのだと思う。


ドミのカバー映像、スナーキー・パピー「Lingus」

―ドミさんは鍵盤奏者だけでなく、ベーシストのコピーもしていますよね。あなたのソロには鍵盤の発想を超えたフレーズもあるのかなと思います。鍵盤、ベース以外でトランスクライブしてきたミュージシャンがいたら教えてください。

ドミ:鍵盤奏者はできるだけ書き起こしをしないようにしてきた。大体一つの楽器をやっていると、同じ楽器のミュージシャンだけを書き起こす傾向にある。ピアノ奏者ならピアノ奏者、サックス奏者ならサックス奏者を書き起こしがちで、みんな同じような演奏になっていってしまう。だから私はパット・メセニーのギター、ジャコ・パストリアスのベース、チャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、ジョシュア・レッドマンなどを書き起こしてきた。もちろん、ブラッド・メルドー、チック・コリア、キース・ジャレットあたりは研究したけど、ピアノ奏者だけにはならないように意識してきた。ベースに関しては演奏するのが大好き。キーボードを弾くのよりも好きかも。ベーシストならジャコが一番好きかな。

JD:アラン・ホールズワースのソロもやってたよね。「Atavachron」をやっていたけど、あれは本当に難しかった。

ドミ:どの楽器にも一番簡単な演奏の仕方、一番難しい演奏の仕方があって、自分の楽器の限界に合わせてフレーズやソロの演奏も限定してしまう。そこで例えばサックスのように違う楽器の演奏をピアノに置き換えれば、アルペジオだったり、もっと大きなインターバルだったり、ピアノと比較するとやりやすくなる。見た目や本質が違うから。ギターもそう。個人的にはピアノの曲ばかり演奏していても、ピアニストにはなれるけどミュージシャンにはなれないと思ってる。


ドミのカバー映像、サンダーキャット「Them Changes」

―JD・ベックさんのドラムはかなり手数も多いし、大胆な変化も細やかな変化も至るところで見受けられます。『NOT TiGHT』において、あなたのドラムは作編曲の時点でどのくらい事前にあらかじめ組み込まれていましたか?

JD:アルバム全体を通して、自分が持ち得る限りのボキャブラリーをつぎ込もうと思っていた。それぞれの曲で、僕のなかにある技術やアイデアが空っぽになるまでね。実際こうやってレコーディングしたことで、これまで演奏してきたフレーズやスティッキング、パターンから解き放たれた気がする。今はツアー中だから忘れるわけにはいかないんだけど、真っ新の状態で再スタートできると思うよ。

―ドラムのプレイはもちろんとして、特殊なセッティングも含めた個性的な音色やテクスチャーも特徴的ですよね。作編曲をする際にどのくらいデザインしてるものなんですか?

JD:曲づくりのとき、最後までドラムのことは考えない。それが自分にとって一番いいんだと思う。そうすることによって、仕上がった時にすべてを見渡せて、色々なアイディアが思い浮かぶからね。フルスコープで見られるというか。



―『NOT TiGHT』のドラムについて、録音や演奏の面でもっともクレイジーだと思う曲は?

JD:一番クレイジーなレコーディングは「SPACE MOUNTAiN」。できる限りロボットのように、できるだけアグレッシブに叩いているから。ドラムにエフェクトをかけて、これまでで一番ドラムマシーンに近い音になったんじゃないかな。しかも、iPhoneですべてレコーディングしたんだ。演奏面でいうと「WHOA」か「SMiLE」のドラム・ソロが一番難しくて込み入っていると思う。特に、「SMiLE」のソロは自分自身を驚かすためにやったものだから。自分が演奏するとなれば大体想像がつくから、そういう気持ちはなかなか得られない。あのソロは自分を無意識で驚かそうとしていたんだと思う。




―『Not Tight』では僕らが今までにYouTubeなどで見てきたドミ&JD・ベックのすごさがそのまま出ています。キーボードもドラムも(ドミさんがキーボードで弾くベースも)全てが主役に聴こえるアレンジになっているし、2人ともライブのと同じように自由に演奏しているように映ります。でも、ジャムではなくて、完成度の高い「曲」になっている。インストゥルメンタル音楽における理想を形にしていると思うんですが、どうやってこんな音楽を作ったんですか?

ドミ:どうしていきたいのか考えながらだった。人生を右往左往しながら、自分たちがどうなりたいのか考えながら、自分たちのサウンドを作り上げながらだった。どうなっていくのかわからない2、3年の努力の結果かな。

JD:曲を書き始めたのが14歳で、今19歳でアルバムが発売されるからとても不思議な気分。説明が難しいな。

ドミ:プロセスを説明するのは大変。やってきたことを考えたり分析してきたりしたわけじゃないし、とにかくやっているだけだったから。

JD:今振り返ってみるとややこしいね。全部まとまったことが驚き。

ドミ:うん、できあがったこと自体が驚き。

JD:今の時点でアルバムってどう作るのか忘れてしまったくらいだよ。

ドミ:もう諦めて、次は絵でも描くしかないかも。



―このアルバムからは、繊細なコミュニケーションも伝わってきます。誰かのソロを弾いているときに重ねる鍵盤のコードや、そのソロの変化に応えるようなドラムのアプローチなど、とにかく丁寧で、誰よりも音を聴いているのを感じます。自分たちの大胆さやクレイジーさではなく、繊細さや丁寧さについて心がけていることがあれば聞かせて下さい。

ドミ:鍵を握っているのは耳を使うこと。多くの作曲家やミュージシャンというのは、必要なレベルまで自分たちの耳を使っていないんだと思う。

JD:みんなもっとプラクティカルっていうか、脳を使っているっていうか……たとえばソロをやっているときに「こういう演奏をしなければいけない」なんてどこにも書いてないよね。それなのにジャズのライブに行くと、ベースがソロを始めるや否やピアノが止まるか、静かになってドラマーがハイハットしか叩かなくなる。何でそんなことをするのって思うんだよね。僕はそんなことをしたくない。誰かがソロのときも、みんなもっとソロの周りで演奏しようよ、一人に物語を語らせるのではなく、みんなで手伝おうよってね。

ドミ:アートに関するルールなんて作れるわけがない、それに尽きると思う。自分の耳を使って、その瞬間にうまくいく術を見出さないと。繊細さについて答えると、演奏中は自分たちでも考えていないはず。「ここはこうしないと」なんて考えていない。だから、ルールもなければ秘密もない。やらなければならないことをやっているだけ。曖昧な言い方だけど、そういうものなんだよね。

JD:そうだね、これは言葉で説明しづらいことだね。

―『NOT TiGHT』の中で「みんなが気付いてなさそうな細かい部分」があったら聞かせてください。

ドミ:「TWO SHRiMPS」のボーカルを録音しているとき、マック(・デマルコ)がテイクの途中で咳をしているんだけど、気づいた人がいるかどうか。

JD:僕もあの曲の静かなところで、ボーカルでちょっとやらかしている(笑)。

ドミ:あとはサンプリングなんて使ってないのに、「どこからのサンプリング?」って聞かれることもある。


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