狂気の神、フィル・ティペット監督が語る「創作論」

『マッドゴッド』メイキング写真 ©2021 Tippett Studio

映画視覚効果の巨匠フィル・ティペットの監督作品『マッドゴッド』が日本でも公開された。

【写真を見る】制作期間30年!暗黒のストップモーションアニメ『マッドゴッド』

『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980年)のAT-AT、『ロボコップ』(1990年)のED-209、『ジュラシック・パーク』(1993年)のヴェロキラプトル、『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)のウォリアー・バグなど、フィルはさまざまなキャラクターに生命を吹き込むムービー・マジックを実現させてきた。その彼が監督を手がける初の長編作品は、ダークでシュルレアルなディストピア・ファンタジーだ。ストップモーション・アニメーションによる異世界の住人たちと共に、我々は光の届かない闇へとどこまでも降りていく。

『キング・コング』(1933年)のウィリス・H・オブライエン、『シンバッド七回目の航海』(1958年)のレイ・ハリーハウゼンらの魂を受け継ぎ、新たなる生命を創り出す“狂気の神”として世界の映画ファンから信奉されるフィルがインタビューに応じてくれた。

ーストップモーション・アニメーションは1秒ごとに24コマを少しずつ動かして撮影して、何日も何週間も何カ月もかけて数分のシーンを完成させるという作業です。30年以上をかけて『マッドゴッド』を完成させるという根気と忍耐力も、そんな過程から培ったものでしょうか?

ストップモーション・アニメーションの作業について“根気”や“忍耐”と考えることはないよ。瞑想のようなプロセスで、自分の周囲の時間が止まったようになるんだ。以前レイ・ハリーハウゼンと公開トーク・イベントをやったとき、お客さんの1人に「モンスターを1コマずつ動かすのにウンザリしませんか?」と訊かれたことがある。レイも私も「全然そんなことはない」と答えたよ。世界をシャットアウトして、ひとつのことに没頭することが出来るんだ。 精神的な時間がスローダウンする、安全な場所なんだよ。私が作業をしているあいだは、誰もしゃべらないようにしてもらう。脳がまったく別空間にあるから、作業を終えて、現実に戻ってくるまで数分を要するんだよ。



ーディズニープラスの『ライト&マジック』(2022年)、英米合作の『決定版!SF映画年代記』(2014年)、Viceの『Icons Unearthed: Star Wars』(2022年)など多くのドキュメンタリー作品に出演、あなた自身にスポットライトを当てた映画/書籍『Mad Dreams and Monsters』(2019年/2022年)も作られるなど、しばしば裏方に留まることのない活動をしていますが、前面に出ることは楽しんでいますか?

特に問題はないよ。何だって最初は緊張するんだ。『ドラゴンスレイヤー』(1981年)を作るとき、制作チームのマット・ロビンズとハル・バーウッドと、ドラゴンをどう動かすかについて話し合ったんだ。そのときはすごくナーヴァスになった。それまでやったことがない新しいテクニックだったからね。でも時間が経つごとに慣れて、納得のいく出来映えになった。映画に出るのもそれに似ているよ。最初はとてつもなく緊張するけど、徐々にそれが日常になっていくんだ。私の仕事の一部だと考えているよ。注目してもらえることには感謝しているし、話を聞こうという人には応えるようにしているよ。

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