ワイズ・ブラッドが語る、破滅的変化の時代に生まれたバロック・ポップ

ワイズ・ブラッド(Photo by Neil Krug)

 
2019年の前作『Titanic Rising』が、米英の幾つもの有名音楽誌に年間最優秀アルバムの第1位に挙げられるほど、高い評価を受けたワイズ・ブラッド(Weyes Blood)。彼女は70年代のシンガー・ソングライターとソフト・ロックを再構築したような優美な音楽と、カレン・カーペンターにもよく比較される温かみのあるアルトの歌声で、黙示録的な世界で人びとが不安を抱えながら、愛を探し続け、分かち合おうとする姿を描く。

待望のニュー・アルバム『And in the Darkness, Hearts Aglow』は、コロナのパンデミックに見舞われ、人びとの孤立が深まる状況下で制作された。プレスリリースの本人の言葉によれば、前作が「これから起こることの観察であり、差し迫った運命の予感」だったの対し、今回は「次の段階に入って、つまり、私たち全員が今日置かれている状況、文字通りその真っ只中にいること」についてで、その渦中からの発信となったわけだ。前作の予測した孤立が今まさに現実となり、私たちはみんな破滅的な変化の崖っぷちにいるという認識を持ちつつ、人びとのつながりを求める切なる願いを表現している。不穏な空気との格闘から生まれた、情感あふれるバロック・ポップは、豊かなオーケストレーションを施されており、さらに完成度を高めた。

そのワイズ・ブラッドこと、ナタリー・メーリングにZoomでインタビューし、その新作についての話を聞くことができた。



―『Titanic Rising』の大成功はアーティストとしての人生にどういった変化と影響をもたらしましたか? あれほどの高い評価は自分のやっていることに自信を与えてくれたでしょう?

ナタリー:ええ、それは間違いないわね。扉を開けてくれた。それまでよりもツアーで多くの場所に行けるようになって、もっと多くの人に私の音楽を届けられるようになった。

―ニュー・アルバムは前作から始まる3部作の2作目だそうですが、『Titanic Rising』制作中から連作にしようと計画していたのですか?

ナタリー:自分が何を語っているのかをわかっていたから。次のアルバムが『Titanic Rising』から新たな展開をするものになると理解していた。すべてが希望や解決策についてのものになるとね。でも、ロックダウンが始まって、曲を書き始めたら、実際にはもっと暗く、もっと個人的で、内面的なものになった。だから、これは(前作からの)過程の続きのようなもので、3作目が新たな展開の作品となって、未来と希望についてになるわ。

―本作にとりかかったときは、まだパンデミックが起こるとは思っていなかった。

ナタリー:ショッキングだった。レコードを作り始めたばかりで、不意に止めなくちゃならなかった。まったく異なる環境でレコードを作らざるをえなくなり、万事が移行していった。自分の行く場所が自分自身の内側しかなくなったの。

―『Titanic Rising』には気候変動の問題が背景にありましたし、本作にはパンデミックを体験した社会が反映しています。あなたのソングライティングは常に私的な歌であっても、その社会状況と響き合っているようです。

ナタリー:マクロとマイクロの関係ね。社会の大きな出来事は構造的に、間違いなく私的な問題に影響を与える。この数年の間に、私たちが実際に目にしたのは、親密な人間関係が最先端のテクノロジーにすごく強いインパクトを受けるということ。どのようにコミュニケートするかの手段とかによってね。或る意味では、社会の組織を崩壊させて、私たちの社会について改めて考えさせた。そんなインパクトがある。マクロとマイクロの出会いがもたらす意味はこの期間に多くの人たちが語っていたことでもある。

―パンデミックがなかったら、新作は随分異なった内容になったと思います?

ナタリー:ええ。まったくね。


Photo by Neil Krug

―それでも、いずれにせよ、アルバムの表題にもある「暗闇の中で輝く心」を探すという方向性はあったんじゃないですか?

ナタリー:そうでしょうね。もしこれが起ったら、起らなかったらといった仮定はできないわけだけど。あの状況にこのレコードは強いインパクトを受けた。《最後の審判日》みたいな日々でもあって、多くの人にとって多くのことに光を当てることになった。そして、私たちは文化として不確定な時期に向っているという認識を明らかにした。

―「The Worst Is Done」で、「今の私は変わった」とか「私たちはみんなすごく気が変になった」と歌っていますが、パンデミックはあなたを、私たちを、社会を変えたと感じています?

ナタリー:そう思う。社会全体がもっと不安、憂鬱、疲労を、それまでに考えたことのなかった水準で感じていた。たくさんの感情の変化、疑問、そして若い人たちには、不確かさがとても現実的なものとして、大きなプレッシャーを与えている。そして人びとがとても孤立している状況はその助けになってないわね。そのために、私たちの仕事も人生もソーシャルメディアのなかで起こる状況に頼ってしまっている。

―そんな孤立を感じている人びとにとって、音楽はより重要になっていると思います?

ナタリー:そう思うわ。彼らにとってはカタルシスを覚え、自分を解き放つ手段になっている。でも、同時にこうも感じている。音楽はそれだけくらいしかできない。明らかに現実にやらなくちゃいけないことがもっとあるわね(笑)。

 
 
 
 

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