テイラー・スウィフト『Midnights』 深い夜の世界へいざなう最新作を徹底レビュー

テイラー・スウィフト(Photo by BETH GARRABRANT)

通算10作目となるテイラー・スウィフトの最新アルバム『Midnights』が10月21日に発表された(日本盤は10月26日リリース)。ここでテイラーは、ラブストーリーと復讐劇との間を行き来する歌詞に加えて、魅惑的なシンセポップ・サウンド満載の『1989』(2014年)や『reputation』(2017年)などの過去作に立ち返っている。すでに本国では数々のセールス記録を樹立。傑作との呼び声も高く、米ローリングストーン誌のレビューは最高評価の5つ星。その全文をお届けする。

テイラー・スウィフトのニューアルバム『Midnights』は、いったいどんなアルバムになるだろう? 8月末のリリース発表以来、テイラーはいままでとは違うロールアウト戦略を試してきた。先行シングルもなければ、12時間後にサプライズでアルバムが発表されることもなかった。その代わり、2カ月にわたってデヴィッド・リンチ監督の映画のようなTikTok動画を投稿し続けて楽曲のタイトルや歌詞を公開することで、テイラーからのヒントにいつも飢えているファンたちの好奇心を掻き立てたのだ。

『Midnights』には、無限の可能性があった。『Lover』(2019年)で華やかで幻想的なバブルガム・ポップを追求した後、テイラーは音楽性の方向転換を図るかのように姉妹アルバム『folklore』(2020年)と『evermore』(2020年)でインディー・フォークの森に足を踏み入れた。その後は『Fearless』(2009年)や『Red』(2012年)といった過去アルバムの再レコーディングを行い、当時は未発表に終わった楽曲をボーナストラックとして加えることで両作をより一層豊かなアルバムに仕上げた。

では、ニューアルバムは具体的にどのようなアルバムなのか? ある意味、『Midnights』は上述のアルバムが全部盛り込まれた作品といえる。そのなかでも、『1989』、『reputation』、『Lover』の純粋なポップサウンド3部作の続編という色合いが特に強いかもしれない。それに加えて、ラブストーリーと復讐劇の間を行き来する歌詞が目眩くシンセサイザーサウンドの洪水をさらに盛り上げている。『Midnights』はそんなアルバムだ。

通算10作目となる最新作のリリースにあたり、テイラーは長年の制作パートナーであるジャック・アントノフをプロデューサーに迎えてレコーディングを行った。アルバムのテーマは、テイラーがこよなく愛する夜(それもタイトルになっている“真夜中”)。ニューアルバムの告知の際に本人が明かしたとおり、『Midnights』に収録されている楽曲のひとつひとつは、テイラー自身が経験した“13の眠れぬ夜”を表現している。なかなか寝つけない夜、テイラーは自分の頭の中に浮かぶありとあらゆる思いに身をゆだねると語る。人間関係やポップアイコンとしての世間のイメージ、さらには歴代のボーイフレンドたち、自分自身の内なる子供などが次から次へと現れては、テイラーを破滅へと導こうとしたり、解放したりするのだ。だが、『Midnights』は悪夢というよりは甘美な夢を描いたアルバムだ。そこでは、テイラーの歌詞が盾となって彼女の人生と親密な人間関係を守っている。



ニューアルバムのオープニングを飾る「Lavender Haze」は、ケンドリック・ラマーのコラボレーターや、テイラーの友人であるゾーイ・クラヴィッツとともに制作されたトラック。収録曲の中では、テイラーを守る盾の要素がもっとも顕著な曲かもしれない。テイラーは、TikTokシリーズ「Midnight Mayhem with Me」の中で「Lavender Haze」というタイトルを発表した。その際、「根も葉もない変な噂」や、6年来の恋人であるイギリス出身の俳優/ミュージシャンのジョー・アルウィンと自分がネットやタブロイド誌の標的にされ続けたことを辛辣に語った。タイトルは、1960年代のニューヨークの広告業界を舞台にしたドラマ『マッドメン』からインスパイアされたもので、「すべてを包み込む愛の光り」を意味する。歌詞としては、「Call It What You Want」や「Cruel Summer」のように、あらゆる負の要素や批判、期待に愛の光りが打ち勝っていく様子を想起させる。だが「Lavender Haze」でテイラーは、こうした世間の声に苛立ちを覚える代わりに、“私に1950年代的なくだらないことを期待している”と、結婚はいつ?という世間からの絶え間ないプレッシャーや、キャリアを通じて争ってきた“処女/娼婦”の二分法(“一夜限りの遊べる女かお嫁さん/世間はそんな目でしか見ていない”)を跳ね除ける。ニューアルバムのほかの収録曲がそうであるように、「Lavender Haze」のサウンドは控えめでありながらも美しくきらめいている。そのせいか、「Look What You Made Me Do」や「Me!」といった爆発的なポップサウンドのほうがテイラーのサウンドの方向性としては異質にさえ聴こえてしまうほどだ。実際、サウンドに対するテイラーのアプローチは控えめだが、ポップ・ミュージックの楽しさの本質というべき遊び心の探究は健在だ。

Translated by Shoko Natori

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