ジェレミー・ザッカー来日公演、豊かなメロディと躍動感に満ちた「幸福な対話」

ジェレミー・ザッカー(Photo by Sotaro Goto)

 
Z世代のシンガーソングライター/プロデューサー、ジェレミー・ザッカー(Jeremy Zucker)が3年ぶりに来日。さる10月13日、渋谷・Spotify O-EASTで行われたライブの模様を、音楽ライターの小池宏和がレポート。

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あの「comethru」で嬌声を誘い、美麗なメロディをオーディエンスとじっくり共有するジェレミー・ザッカー。一瞬の溜めを作り、焦らすようにしながらこの曲をフィニッシュするとき、オーディエンスが待ちきれずに歌ってしまうので、ジェレミーは「僕の歌、取られちゃったよ」と楽しそうな笑顔で言葉を添える。その微笑ましくも親密なムードのライブに触れながら、世界中がパンデミックにさらされた季節に我々の心を潤してくれたのは、TikTok動画などを通じてバイラルヒットしたこんな曲(リリースは2018年)だったよな、と感慨に耽った。

米ニュージャージー州出身、現在26歳のシンガーソングライターであるジェレミー・ザッカーの来日公演。彼は2019年に初来日して一夜のみのショウを繰り広げたが、今回は大阪と東京でステージに立つツアーである。アジア/オセアニア諸地域を巡るワールドツアーの一環、なかなかにタフなスケジュールだが、この日の渋谷・Spotify O-EASTも焦らず気負わず、オーディエンスと共にライブのムードを練り上げてゆくステージになっていた。

学生時代にGarageBandを用いて本格的に音楽制作をスタートさせたジェレミーの表現は、いわゆるベッドルーム・ポップのスタイルだ。ブリンク182のポップパンクからボン・イヴェールのようなルーツ志向オルタナティブ、さらにはR&Bやヒップホップまでさまざまな音楽の影響を受けつつ、しかし決して密室的なサウンドにはならない。メロディ・オリエンテッドで伸び伸びとした、ときにはサーフポップのように有機的で風通しの良い楽曲の数々を生み出し、人気を博している。EPリリースを続ける中で2017年にメジャーデビューを果たすと、自身のライブツアー開催のみならずラウヴ(Lauv)のツアーにも帯同した。




Photo by Sotaro Goto

映画スコアのような開演SEが音量を増して迫り、姿を見せたジェレミーは熊の耳のような突起が付いた可愛らしい帽子を被っている。ステージ上はサポートのドラマーと、ベース兼キーボード奏者(こちらはジェレミーのお兄さんらしい)という3人編成である。まずは2020年のメジャーデビューアルバム『love is not dying』から、メランコリックな旋律の「we’re fucked, it’s fine」が披露される。ハロー、とシンプルな挨拶を挟み込み、今度は最新アルバム『CRUSHER』から「Therapist」だ。インディーズ時代にはどちらかと言えばプログラミング主体のエレクトロニック・サウンドが目立っていたジェレミーの作風だが、近年はそのどっしりとしたグッドメロディのセンスを存分に発揮し、オーセンティックなロック系シンガーソングライターの作風を現代的に表現している。

だからなのか、ステージ上のパフォーマンスも3人という少人数編成なのに、早くもパワフルな躍動感を放ち始める。ジェレミーがギターを携えて東京再訪の喜びを交えながら挨拶すると、骨太な手応えの「i-70」へと向かっていった。フロアには「WE♡U」のメッセージボードが揺れ、体感温度が上昇してゆく。アコギにスイッチした「always, i’ll care」は音源と違って弾き語りスタイルのソフトな立ち上がりだが、後からキーボードフレーズやビートが加わり、最後はオーディエンスとの歌の掛け合いでフィニッシュするという、ダイナミックな抑揚を描き出していた。

 
 
 
 

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