Lizabet、小林武史との化学反応が生んだ新たなJ-POP像

Lizabet

3月9日、Lizabetがデビューシングル「Another Day Goes By」を発表した。イギリス人とベトナム人の両親のもと、香港で生まれ育った現在16歳の彼女は、幼少の頃より音楽活動をはじめ、中国・香港・東南アジアを中心にパフォーマンスを行ってきたという。1月に先行配信された「Another Day Goes By」は、小林武史がプロデュースを担当し、作曲とアレンジを手掛けたバラード。TBS系 日曜劇場『DCU』の主題歌としてオンエアされ、岩井俊二が監督を務めたミュージックビデオは公開2カ月で1000万再生を目前にしている。



様々な意味で破格のデビューと言えるが、楽曲を聴けば彼女の才能に多くのクリエイターが惚れ込んだ理由が伝わってくる。その歌声は16歳にしてすでに確かな表現力と風格が備わっていて、全編が英語で歌われていることもあり、たとえば、アデルが『19』で鮮烈なデビューを飾ったときのような驚きがある。「ABサビ」ではなく、ヴァースとコーラスの繰り返しを基調とした構成のなか、ストリングスをアレンジの軸に据えて、リズムは抑えたプロダクションにしているのは、その歌声の魅力を最大限に引き出すためだろう。

Lizabet自身が書いた歌詞は、<The water’s calling out to me/I hear your voice in the breeze>(あなたの海が私に呼びかける/あなたの声が波間に聴こえて)というラインから、海上保安庁に新設された架空のエキスパート集団DCUを主人公とするドラマとのリンクが感じられる。ただ、<I’ve got to stay strong/I’ve got to move along>(強くいられるように/前に進めるように)といったラインは、大きな注目を集めるなかでのデビューとなった彼女自身の心境の表れでもあるはずだ。

また、表題曲以外では、ピアノの弾き語りを基調に、オルガンが空間に広がりを与えるアレンジの「Reaching for the Stars」に加えて、小林武史×岩井俊二の最高傑作と言っても過言ではない、YEN TOWN BANDの「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」の英詞カバーを収録。音数を絞り、グロッケンやピアニカをアクセントとしてダブワイズ的に使ったトラックは、やはり過度にドラマ性を作り上げるのではなく、繊細な音のレイヤーでLizabetの芯のある歌声を浮かび上がらせているように聴こえる。

香港で生まれ育った彼女がいかにしてここ日本でデビューを飾ることになったのか、その経緯の詳細はわからないが、音楽シーンとの関係性でいえば、miletのブレイクというのはひとつの背景として大きかったかもしれない。ONE OK ROCKのToruと組んで発表された「inside you」で大きなインパクトを残し、2年連続で『NHK紅白歌合戦』への出場を果たすに至る彼女の快進撃は、「日本人離れ」「洋楽的」といった形容をいま一度過去のものとし、新たな基準を作り上げたと言えるだろう。

今年に入って、映画『竜とそばかすの姫』での声優デビューも話題となった16歳のHana Hopeが、Black Boboiや浦上想起らを制作陣に迎えたシングル『Sentiment / Your Song』でデビューを飾り、Spotifyが選出する「RADAR:Early Noise 2022」の10組にも選ばれた15才のaoが、ChocoholicやESME MORIらをアレンジャーに迎えたデビューアルバム『LOOK』を発表しているのは、miletのブレイク以降に女性シンガーの新たな潮流が生まれ、グローバルな感性を持った若き才能が次々に発見されていることを感じさせる。

そんな中にあって、LizabetがこれまでのJ-POPシーンを牽引してきたプロデューサーである小林武史と組んだことは、従来の「J-POP」の概念を崩しながら、新たな「J-POP」の枠組みを拡張することに繋がるだろう。少なくとも、これまでアジアを舞台に活動をしてきた彼女の存在は、国内のみで消費されることを前提としたものではなく、アジア圏はもちろん、そこでのバズから欧米へと楽曲を届けていくことを見据えたものであるはずだ。

そして、近年韓国や香港などをルーツに持つアーティストがここ日本でも目立つようになってきた中で、彼女の活躍はその状況をより後押しすることに繋がるという意味でも、とても意義深い。<強くいられるように/前に進めるように>。この国の音楽シーンを前進させるたくさんの可能性を秘めて、Lizabetの物語が幕を開けた。



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