ムーンチャイルドが語る、ひとりで音楽を作れる時代にコラボレーションから学んだこと

ムーンチャイルド

 
ムーンチャイルドが2012年の『Be Free』でアルバムデビューを飾ってから10年が経過した。2015年の次作『Please Rewind』でその唯一無二のサウンドとクオリティの高さで注目され、たちまち人気が定着した彼らはその後も『Voyager』(2017年)、『Little Ghost』(2019年)と素晴らしい作品をリリースし続けてきた。アンバー・ナヴラン、マックス・ブリック、アンドリス・マットソンの3人はいまや世界中のフェスで引っ張りだこ、忙しそうにワールドツアーを行っている姿が当たり前の光景になっている。

僕もこれまで3人に何度か取材してきたが、ムーンチャイルドについてずっと不思議だったのは、どこのシーンのどんな場所に属しているのか見えてこないことだった。南カリフォルニア大学のジャズ・スクールで結成され、LAが拠点であるのは間違いない。カマシ・ワシントン、スティーヴィー・ワンダー、ジ・インターネット、ジル・スコットのツアーの前座を務めていたりもする。だが、それ以上の交流がなかなか見えてこなくて、孤高のグループみたいな印象もあった。

そんな彼らのイメージは、最新作『Starfruits』で大きく変わった。レイラ・ハサウェイ、アレックス・アイズレー、タンク・アンド・ザ・バンガス、イル・カミーユ、ムームー・フレッシュ、シャンテ・カン、ジョシュ・ジョンソン、ラプソディといきなりゲストが多数参加。このコラボ主体のアルバムで、一気に彼らの交流関係が見えてきた。そこから調べてみると、アンバーはラプソディやムームー・フレッシュに起用されていたり、ロバート・グラスパーやクリス・デイヴの作品に参加していたり、もともと引く手数多であることに気づく。そういった様々な交流が結実した成果が『Starfruits』だと言えるかもしれない。

だが一方で、これだけ個性的なゲスト陣が参加しているにもかかわらず、『Starfruits』の音楽性はいつものムーンチャイルドでもある。それぞれのキャラクターを活かしてはいるが、自分たちのフィールドに引きずり込んでもいる。コロナ禍だろうが、構成を変えようが全く揺らいでいないムーンチャイルドの確固たるスタイルと、相手を受け入れられる柔軟さ、その自信の根拠にもなっているであろう3人の成長について聞きたいと僕は考えた。



ムーンチャイルドのメンバーがゲスト参加した曲を集めたプレイリスト

―以前のインタビューで「常に曲を書いていて、ある程度の曲ができた時点で一旦それまでにできた曲を集めて、コンセプトをどうしようか考える」と話していました。今作はゲストも多いし、ゲストがいる曲といない曲が交互に並んでいるし、構成により強いこだわりを感じます。これまでのアルバムとは制作の進め方も違ったのかなと思いましたが、どうですか?

アンバー:いや、これまでの作り方に近かったと思う。1カ月ほど1日1ビートという感じで3人がそれぞれ同時に作っていって、アルバム収録曲の多くはその過程のなかから生まれたもの。それで曲が少し形になってきたところで、どの曲を誰に送るか、誰をフィーチャーするかを決めていったという感じだった。

アンドリス:ほぼ同意見。つまり、それぞれが個別に作ったものを持ち寄るという部分。それからパンデミックによって、ずっと一緒にやりたいと思っていた人たちがみんな家にいて時間があったから、声を掛ける機会が巡ってきたんだよね。

アンバー:もし世界的パンデミックが起こらなかったら絶対に叶わなかったことだと思う。平常時の彼女たちは多忙だしツアーやライブをやってることが多いから。それは予想外の恩恵だったかも。

―では、『Starfruit』のコンセプトを教えてください。

アンバー:バンドとして10年やってきたということがまず一つあって、だからゲストもこれまでフェスで会ったり、ムーンチャイルドとして活動する中で出会った人たち。それがメインのコンセプトかな。10周年と、これまで受けてきたあらゆる影響と、これまで習得してきたスキルと、これまで出会った人たちと。歌詞の部分はいろんなコンセプトがあるけど、音楽に関して言うとそういう感じになるんじゃないかな。

―『Starfruit』のインスピレーションになったものを挙げるとしたら?

アンドリス:たとえば「Love I Need」は、スライ・ストーンやディアンジェロのサウンドに大きな影響を受けているね。

アンバー:あと「You Got One」は電話の音にインスパイアされた曲で、「Don’t Hurry Home」はフルートのサンプルで……。

マックス:僕らは新しいサウンドをいじってるうちにひらめいたりするんだよ。

アンドリス:僕は、ギターやウクレレといったアコースティックなものと電子ドラムのサウンドを混ぜることに結構ハマっていて。ボン・イヴェールとか他のアーティストがそういうことをやってるのを聴いて、かっこいいなと思って自分もやってみようと思ったんだよね。



―『Starfruit』について、音楽以外のインスピレーションだとどうですか?

アンバー:私は詩をよく読んでいて、そこからコンセプトだったり構造だったり自分が共感するフレーズなんかをノートに書き留めてる。それで自分が書きたいトピックをひとつ決めて、ノートをパラパラめくってそこからインスピレーションを得たり、方向性を探ったりすることもある。でも他のあらゆること、個人的な経験や、身近な人の話からヒントをもらうこともあるし、つまり人生が歌詞に影響を与えていることは間違いないと思う。たとえば「What You Wanted」はツアーの経験についての曲で、たとえキツくなっても、これは自分が望んだんだってことを忘れないようにする内容だしね(笑)。

―アンバーさんは以前から女性詩人や作家のことを度々語っていたと思いますが、本作でも言葉からのインスピレーションがあるんですね。

アンバー:もちろん。今自分の本棚を見てるんだけど……詩人だとナイイラ・ワヒード(※1)やイルサ・デイリー・ウォード(※2)の2人が一番好き。あとはパーシヴァル・エヴェレット(Percival Everett)とか……タンク・アンド・ザ・バンガスのタンク(タリオナ “タンク” ボール:Vo)も詩集を出していて、彼女の詩もすごく好き。詩は常にチェックしているけど、でもフレーズを抜き出して使うのは好きじゃなくて、読んでいて曲のアイデアがひらめくとか、あと細かいディテールがひたすら羅列してあって、最後にようやくどういう意味なのかが分かる詩を読んで、私も曲でそれやりたい!と思ったりね。最初は細かいディテールだけを重ねて、サビになるまで何のことなのか分からない、みたいな。だから構造の部分で影響を受けているという。

※1 Nayyirah Waheed:愛、アイデンティティ、人種、フェミニズムなどを扱う「Instagramで最も有名な詩人」。素性やバックグラウンドは明かされていない。
※2 Yrsa Daley-Ward:1988年、ランカシャー生まれの作家/モデル/俳優。『The Terrible』(2018年)などいくつかの著書を発表。ビヨンセ『Black Is King』『The Lion King: The Gift』にも携わっている。

アンドリス:それって「What You Wanted」でやってた?

アンバー:まさにそう。あとはマヤ・アンジェロウ(アメリカの黒人女性作家/詩人、公民権運動家としても活躍)も好き。言葉について考えるのって本当に面白いと思うし、言葉がすべてである人たちの言葉にはすごく刺激を受ける。言葉を学んで、自分の心も魂もすべて言葉をクリエイティブに扱うことに注いでいるわけだから。多くの作詞家やラッパーも同じようにしていると思うけどね。もちろん音楽からも刺激を受けるけど、でも時には、音楽や曲に合うようにとか、歌いやすいようにとか考えて言葉を使わなくていい人たちのやり方にシフトチェンジしてみるっていうのは面白いと思う。



―サウンド面の話に戻ると、2019年の前作『Little Ghost』では新しい機材やプラグインの話をしていましたが、今回はどうですか?

アンドリス:新しいオモチャは常に仕入れてるよ(笑)。今回は結構ボーカルのエフェクトを色々試していて、アンバーがオクターブペダルとか使ってたよね。

アンバー:オクターブ系もいくつか使ったし、あと最近はSerato Sampleを結構使っている。それから私たちのドラマーのEfa Etoroma Jr.が出しているドラム・パックがあって、彼のサウンドだけを使ってビートを作ろうとしたり。今作でもそのドラム・パックからいくつか使ってるし。

マックス:あと、今作では新しいストリングのプラグインも使ってる。単音だけテクスチャーとして使うといい感じになったりするんだ。本物の弦楽カルテットは雇えないから(笑)。あとは、これまであまり使ってこなかったハーモナイズド・クラリネットを今回は使ってみたり。

アンドリス:それから今回初めて、マックスがアンバーの声をサンプリングしてたよね。

マックス:うん、『Little Ghost』のアカペラのところを「Takes Two」で使ってる。



―『Little Ghost』ではアンドリスがアコギやウクレレを使っていたのも新鮮でしたが、今回は楽器についてのチャレンジは何かありますか?

アンドリス:前作から引き続きという感じだけど、これまでやったことがない楽器の使い方、組み合わせ方を試してたね。たとえば「By Now」の終盤でフリューゲルホルンとアンバーのボーカル、エレクトリック・ギターが交代でコードを引き継いだり。それからさっき言ったようにマックスがクラリネットを使ったり、過去にはそれほどフィーチャーしてこなかったものを新たに取り入れているよ。

アンバー:(アンドリスは)今回結構かっこいいギター・トラックを披露しているよね(笑)。

アンドリス:ハハハ。結構ファンキーなトラックがあったから、頭の中にアイデアが浮かぶままに指を動かしたという感じだね。何度でも好きなだけテイクを重ねてレコーディングできてよかったよ。

マックス:『Little Ghost』では全編アコギを使っていたけど、今回はエレキが多かった。そこも違うよね。

Translated by Akiko Nakamura

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE