Black Country, New Roadが語る「脱退」とその先の人生、若者が大人になること

 
アイザック脱退に思うこと

―最後に、昨日の出来事について教えて下さい。アイザックの脱退が発表され、北米を含む今後のツアーも全てキャンセルとなりました。今回はアイザックの気持ちを考慮しての結論で他に選択肢はなかったと思いますが、アルバムの発売を控えた時期での大きな決断だったと思います。改めて今の心境を教えてもらえますか?

タイラー:正直ホッとしてる。私たちの中だけでずっと秘密にしていたけど、そこから解放されたから。これに関しては長いこと話していたから、いきなりアイザックがバンドをやめるわけじゃないんだ。だから大きなショックを受けたとか、そういうのはなかった。

でも一番悲しいのは、一緒に活動を続けて作品を作ってきた過程で、皆の距離がもっと近くなったのに、バンドが大きくなったことでアイザックへのプレッシャーが増えてしまっていたこと。自分が大好きな人が辛い思いをしているのを見ているのは辛いよね。彼がバンドを抜けてしまったのはすごく悲しい。でも、彼がそれでよりハッピーになれるならそれが一番。だから、私たちも大丈夫。皆にとって良いことだし、皆がより良い方向に行けると思う。

―彼の脱退については、アルバムを作っているタイミングから話していたのですか?

チャーリー:いや、アルバムの制作中はその話はしていなかった。ヨーロッパ・ツアー(※)の後、アイザックがバンド活動に対して難しく感じるようになってきて、去年の末に「これ以上バンドにいるのは難しい」ということを僕たちに話してくれた。タイラーが言った通り、その決断をしてから彼はすごく健康的に見えるし、それが僕らにもすごく嬉しい。彼が抜けて大変な部分もあるけど皆がハッピーなのが一番だから。

※BCNRは2021年11月、同年中に予定されていたヨーロッパ・ツアーを中止・延期することを発表していた。

―アイザックは脱退しますが、新作はBCNRの作品として残り続けます。このアルバムのアイザックの歌を、どんな風にリスナーに聞いてもらいたいですか?

タイラー:それは考えたことなかったな。アルバムは、聴く人それぞれが好きなように、自分自身のために聴いて欲しいから。

チャーリー:そうだね。僕らは自分たちの音楽を「この部分はこのメンバーがメイン」みたいに分けて考えていないから、彼がバンドを抜けたからといってアルバムの捉え方や受け取り方は変わらないし、それが作品の内容を変えるわけでもないと思う。例えばアルバムのレコーディング中に僕が足を怪我したとしても、そのアルバムが「足を怪我したチャーリーが作った作品」になるわけじゃないみたいな感じかな。もちろん、アイザックが参加した最後の作品にはなるけど、アルバム自体はそれを意識した作品じゃないし、それ以上のものがたくさん詰まった作品だと思うよ。

―では、あなたたち自身は本作の彼の歌声を今どのように聴いていますか?

タイラー:もしかしたらアルバム全体を通して脆弱性は感じるかもしれない。でも、それも思い込みかもね。アルバムを作っていた時は、アイザックはハッピーだったから。ワイト島にいた時は本当に楽しかった。7人の友達全員で音楽を作って、素晴らしい時間を過ごせて、皆それがすごく嬉しかった。だから、彼のヴォーカルを聴いて悲しさを感じるのは違う気がする。その悲しみはレコーディングの時には存在していないし、サウンドに反映されているわけじゃないから。



―発表によれば、既に新しい曲にも取り組んでいるそうですね。

チャーリー:うん。今はタイラーが本当に素晴らしい曲を書いているところで、ヴォーカルはグループ全員に振り分けようと計画しているところ。

タイラー:最近は「週に何回練習をするか」みたいな自分たちのルーティンをまた整え始めたところ。今年はそうやって穏やかにスタートして、年内のどこかでショーを始められたら良いなと思うけど、まだいつになるかは決まってないんだ。次のサウンドについても、考え過ぎると逆に曲が書けなくなっちゃうから、あまり意識しないようにしてる。今はただ、皆と自由に時間を過ごして、曲を書いていようと思う。

歌詞やヴォーカルを通して自分をさらけ出すのって、すごくチャレンジングなことだと思うんだけど、アイザックはバンドの中で一番それをやっていたんだよね。だからこれからは、私たち全員がより均等に自分たちの感情を見せていくことが大切になってくると思う。例えば、ショーの時にもし私がその日あまり気分がすぐれなかったら、チャーリーでもルイスでもメイでも、誰かが代わりにリードをとれるような状態を作っていけたら良いな。

―インタビューはこれで終わりですが、スフィアンの話で思い出したことがあって。2008年に『Illinois』のツアーを東京で見たのですが、その時のギタリストが後のセイント・ヴィンセントだったということを後から知って……。

タイラー:そうなんだ!彼女は最高のギタリストだよね。

―はい。それで、BCNRのメンバーもそれぞれ別のプロジェクトに参加していますよね。今のロンドンは、そういうコラボレーションが増えることで、よりクリエイティブな状態になっているのだと思うのですが、一方でスケジュールの面などで難しさを感じる場面はないのかな?と。

チャーリー:活動を続けてきて、今はこのバンドにもっと時間が掛かるようになってきたね。特にジョージアは、BCNRと自分のプロジェクト(ジョックストラップ)の間でバランスを取るのが大変になってきたんじゃないかな。でも時間がある限り、そういう活動をすることは素晴らしいし、楽しいと思う。その経験をバンドに持って帰ってくることだってできる。僕ら全員にとって、BCNRがメインの活動だし、このバンドで音楽を作るのが一番楽しいというのは共通して言えることなんじゃないかな。

タイラー:グループとは別の部分で情熱を持つことって、すごく大切だと思う。いつも同じ友達の輪の中にいるだけじゃなくて、それ以外の友達とも関わるのが大事なのと同じように、BCNR以外の世界を見ることもやっぱり大事だよね。それがバンドにとっても新しいインスピレーションになる。私たちの人生そのものはBCNRよりもずっとスケールが大きい。だから、人生全体を見ながら、その一部としてバンド活動をする、というのも重要だと思う。




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Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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