Black Country, New Roadが語る「脱退」とその先の人生、若者が大人になること

 
「シンプルに聴こえて実は複雑な音楽」

―そう言えば、チャーリーは昨日(1月31日)のツイートで「the second best album of all time」(=新作アルバムのこと)をリリースすると書いた後に、「llinois #1」と呟いていましたよね。

タイラー:チャーリー! なんでそんなこと呟いたの?!(笑)SNSなんてやってないでドラムに集中してなきゃ!

チャーリー:ははは(笑)。そう。スフィアン・スティーヴンスのアルバムのことだよ。

―少し意地悪な質問ですが、新作が『Illinois』に負けているかもと思う点と、負けてないと思う点を、それぞれ教えてもらえますか?

チャーリー:まず初めに、僕がSNSで発言したことについて質問されたのは初めてで、これが最後になることを祈ってる(笑)。もちろんあれはジョークだよ!

でも、『Illinois』は僕にとって不動のお気に入りアルバムの一つで、本当に非の打ち所がないアルバムと思う。今回のアルバムを作る前に何度も何度も聴いたレコードで、あの演奏の濃密さが好きだし、とにかく美しいアルバムだと思う。ハーモニーも完璧だし、その完全な世界にどんどん惹き込まれていく感じがする。色々な要素が詰まっているんだけど、静かで余白が感じられる部分もあって、『Illinois』以上に惹きつけられた作品はないんじゃないかな。

これは負けないという点は、『Illinois』ではカズーが使われてないところかな(笑)。僕らのアルバムでは、「Basketball Shoes」の終わりの方でカズーがふんだんに使われているからね。




―実はこの質問をしたのは、あなた達がいつもバンドの音楽が目指しているものを単に「良い音楽」や「ポップ」のような、とてもシンプルな言葉で説明しているのを読んで、そういった言葉にどういう基準が含まれているのかを詳しく聞きたいなと思っていたからなんです。BCNRの音楽はアレンジの一つまで注目したらすごく複雑に作り込まれています。だからこそ、そこで言う「ポップ」という言葉のニュアンスを知りたくて。

タイラー:ポップって幅が広すぎて定義するのはすごく難しいよね。でも共通して言えるのは、多くの人に受け入れられているって部分だと思う。一番好まれているジャンルということでもそうだし。

私にとっての良いポップ・ミュージックは、シンプルに聴こえて実は複雑な音楽のこと。ポップ・ミュージックの良いところは、シンプルで、どこかで聴いたことがあるようなサウンドだと思わせるところで、それって実はすごく良いフィーリングだと思う。聴いたことがないはずなのに聴いたことがある感じがする、つまり(リスナーが)繋がりを感じられるサウンドを作るっていうのは、本当にすごいことだよね。

去年、私たちは曲の構成を学ぶためにABBAの音楽を聴いたんだけど、実際に研究をしてみると実はすごく複雑な音楽なんだと気がついた。シンプルであると同時にリスナーが繋がりを感じられる曲を作るには、勉強が必要なんだって心の底から思った。自分では予測できないようなコード進行もあって、そういうのって一見シンプルさとはかけ離れているように感じるけど、実は繋がっている。複雑なものが音として空気に漂うと姿を変える。それは新しい発見だったな。

―ではバランスという点ではどうですか? BCNRのメンバーは楽器演奏に長けていて一曲の中での音楽的な参照点も多い。「Bread Song」でのスティーヴ・ライヒや、「The Place Where He Inserted the Blade」でのボブ・ディランの参照もそうですし、他にも例えば「Basketball Shoes」にはカマシ・ワシントンからの影響があるように思いました。

チャーリー:あぁ、うんうん。

―そういった風にアイデアが豊富な一方、曲をシンプルに保つことは大変なのではないかと想像するのですが、メンバー内ではどのようなやりとりをして、そのバランスを取るのでしょう?

タイラー:それは意外と簡単なんだよね。というのも、意見はたくさんあっても、全員一致で賛成する意見は少ないから。私たちは曲を作る上で、全員が「イエス」というアイデアしか採用しない。反対の人がいたら、その人を説得するか他の解決策を見つける必要がある。もしくは逆に反対の人が賛成のメンバーを説得するか。選択肢がたくさんあっても、皆がオープンになって積極的に意見を言い合えば、採用されるものは時間をかけずに自然と見えてくるんだ。私たちは親友同士でお互いをすごく信用しているから、全員がその過程に関わってる。特に誰が主導権を握っているみたいなことはなくて、全員が平等にね。

―じゃあ、時には誰かがどこかで「これはやり過ぎだ」と判断する?

タイラー:そう。何回もね(笑)。でも、1stの時よりはだいぶ減ったと思う。あのアルバムで、音の中にスペースを与えることを学んだから。お互いに音の空間を与え合うことの大切さを、今は前よりも理解できていると思う。



―メンバーの平等性という話とも関係するかも知れませんが、BCNRの音楽をポップ・ミュージックとしてユニークに感じる点のひとつに「必ずしもヴォーカルが曲の中心にあるわけではない」というところがあります。昔レディオヘッドが「自分達はバンドというよりオーケストラ」という比喩を使っていましたが、BCNRもまさに一種のオーケストラとしてバンドがいて、ヴォーカルもその構成員という感じがします。

チャーリー:レディオヘッドと比較してもらえるなんて光栄だよ。オーケストラとまではいかないけど、その要素はあるんじゃないかな。確かに、どの楽器もヴォーカルと同じくらい大切だし、大きな役割を果たしているからね。言葉と同じようにストーリーを語れるわけじゃないから、ヴォーカル程の強いインパクトはないかもしれないけど、曲を作るにあたっては楽器もヴォーカルと同じくらい欠かせないものだと思ってる。そういうバンドのあり方が、僕たち全員にとっての、このバンドの正しいイメージなんだ。

―そういう点で影響を受けたり、共感する他のバンドやアーティストはいますか?

タイラー:うーん……(二人とも悩んでいる様子)地元のバンドについて考えてみたけど、たぶんdeathcrashかな。

チャーリー:確かに! それは良いチョイスだね。

タイラー:ヴォーカルの出て来る感じが、ルイスのサックスのメロディが出て来る感じと似ていると思う。色んな楽器やヴォーカルが絡み合った感じ。誰かが前に出てきて演奏して、また戻って次の誰かのためにスペースを与える部分も似ていると思う。



―なるほど。ただ、先ほどスフィアン・スティーヴンスの話もしましたが、彼やアーケード・ファイア、あるいは、ザ・ナショナルやディランなど、あなた達の新作を聴いていると北米産の音楽との繋がりを感じることが多い一方で、ブラック・ミディなどの例外を除くと、今のロンドンのシーンに音楽的な共通点を持っているバンドは多くない気がします。ロンドンあるいはサウスロンドンのシーンと自分達の音楽の関係性について、今はどのように捉えていますか?

タイラー:ロンドンのシーンも、ここ数年はパンデミックの影響を大きく受けているよね。皆が同じベニューで定期的にプレイできなくなって、お互いの演奏を観なくなったから音楽的に前ほどコネクトしていない気がする。

でも、それとは関係なく、私たちは最初からあまりそういうシーンの中心にはいなかったようにも感じるな。それに「サウスロンドン・シーンのバンド」と言ってもサウンド的な共通点って元からあまりなくて、ユニークなサウンドを作っているバンドがたくさんいる。だから、サウスロンドンっぽいサウンドっていうのは実は無いのかなとも思う。

チャーリー:僕も同じ。僕らは「サウスロンドンのバンド」と呼ばれるほど、そこに関わってないと思う。サウスロンドンではそこまで演奏もしてないしね。ファット・ホワイト・ファミリー、シェイム、ゴート・ガール、ブラック・ミディ、それに僕らみたいな、ウィンドミルから出てきたバンドという意味でのシーンみたいなものなら以前はあったと思うけど、今はそこからまた枝分かれしてる。

その辺りのバンドがいまだに一括りにされるのは、パンデミック前にウィンドミルで演奏していた最後のバンド達だったからじゃないかな。その後は、そもそもギグが無かったから新しいバンドに注目が向いてないだけで。だからまた以前のように、皆が活発にギグをできるようになったら、ウィンドミルからも色々なバンドが出てきて、以前僕らがそう認識されていたように彼らが「サウスロンドンのバンド」と呼ばれるようになるんじゃないかな。

―では、もっと大きな括りで、「英国のバンド」という意味ではどうですか? 自分達が英国のバンドだと感じることはある?

タイラー:英国生まれではあるけど、それを代表しているわけじゃないかな(笑)。偶然イギリス出身というだけで、イギリスらしさとかそういうのは意識してない。

チャーリー:うん、僕もそう思うね。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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