塩田明彦と向井秀徳、「人生がシンクロしている」二人が語る映画とロックの融合

塩田明彦と向井秀徳

映画にロックを使ったからといって、そこにロックの精神が宿るわけではない。いかにロックを物語に溶け込ませ、映画的に表現するのか。それは作り手にロックと映画の両方に対する理解がないと難しい。そんななか、映画監督とミュージシャンの見事なコラボレートで、映画にロックの息吹を吹き込んでいるのが『麻希のいる世界』だ。音楽の才能を持ちながらも周りから孤立している女子高生、麻希。そんな彼女に惹かれていく由希。そして、由希に想いを寄せる同級生の祐介。そんな3人の人間模様を描いた『麻希のいる世界』は、音楽が添え物ではなく、キャラクターとしっかりと結びついて重要な役割を果たしている。

監督を手掛けた塩田明彦は、『どろろ』(2007年)、『さよならくちびる』(2019年)などヒット作を生み出す一方で、『害虫』(2002年)、『カナリア』(2005年)といった作品が海外の映画賞を受賞して作家性も高く評価されてきた。これまで、草野マサムネ、大友良英、秦基博、あいみょんなど、様々なミュージシャンが塩田の作品に音楽を提供してきたが、20年間にわたって交流を続けてきたのが向井秀徳だ。向井はNUMBER GIRL、ZAZEN BOYS、KIMONOSなど様々なバンドでの活躍に加えて、『少年メリケンサック』(2009年)、『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)などサントラも数多く手がけてきた。『麻希のいる世界』では、ヒロインの麻希が歌うオリジナル曲「排水管」を書き下ろし、ギターの演奏や歌い方も指導するなど、音楽面で様々なアイデアを提供した。今回で3度目の顔合わせとなった塩田と向井は、どのようにしてロックと映画を融合させたのか。長年に渡って刺激を与えあってきたという二人に話を訊いた。


『麻希のいる世界』予告編、主演・日髙麻鈴が向井秀徳による劇中歌「排水管」を歌うシーンも

ーお二人が初めて一緒にやられたのは『害虫』でした。どういう経緯だったのでしょうか。

塩田:音楽をどうしようかと考えていて、音楽プロデューサーの北原京子さんに相談したんです。ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンみたいに激しいギターが鳴っているイメージなんだけどって。そしたら、北原さんが「じゃあ、NUMBER GIRLじゃないですか」って。僕はNUMBER GIRLのことは知らなかったので、1stから順番に聴いていって『SAPPUKEI』を聴いたら頭の中で鳴り止まなく鳴っちゃったんです。

向井:塩田さんから話が来たのは『NUM-HEAVYMETALLIC』ができた頃でしたね。アルバム制作でテンションが上がっていて、その勢いで映画用の曲を作った。今思うと、どういう曲にするのかとか、監督と具体的に話をした記憶がないですね。

塩田:それは向井さんが「映画音楽ってやったことがないから、思いつくままにやっていいですか?」って言ったんですよ(笑)。僕の頭の中ではNUMBER GIRLが鳴ってたからそれでいいかと思って。

向井:まあ、それでNUMBER GIRLらしくやって、それが「I Don’t Know」という曲になったんですけど、ワンコードで押し切って、そこにドラムが畳み掛ける。NUMBER GIRL暴走中!みたいな曲になったんです。セッションしている時に新しい手応えを感じて、曲が完成した時は実に爽快でした。



ーシーンにぴったりハマってましたね。宮崎あおいさんが演じるヒロインの感情の動きが、そのまま曲になったようでした。

塩田:あのシーンでかける曲、ということで頼んだわけじゃないんですよ。ところが、かけてみると映画の流れと曲の流れがあっていて時間もぴったり、という奇跡的なことが起こったんです。

向井:映画にBGMとして乗っかっているのではなく、映画の世界に我々の音楽が入り込んでいけた気がして嬉しかったですね。

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