映秀。が角野隼斗ら交えたツアー完走、初ワンマンで見せた涙と最初の集大成

ここから後半戦に入ると、映秀。が「僕の大親友」と紹介したピアニスト・角野隼斗が参加。音源ではギターがリードしていた「共鏡」の導入部を、繊細なタッチで書き換えるなど、楽曲のポテンシャルを次々と引き出していく。やさしく寄り添ったり、軽快に跳ね周ったり、エモーショナルな旋律を奏でたりと変幻自在。そんな角野の手腕によって、映秀。の歌声もますます表情豊かになっていく。

もう楽しすぎて仕方がなかったのだろう。よりラウドに変貌した「喝采」では、首を痛めそうな勢いでヘドバン。「ハ茶メ茶オ茶メ」では1番の歌詞をうっかり2番でも繰り返し、「本当にハチャメチャだよ」と漏らす場面も。それもこれも一心不乱に音楽と戯れていたから起きたこと。ステージ狭しと飛び回り、儚くも情熱的に歌うその姿は、まさに音楽の申し子。次に何が起こるかワクワクが止まらず、気づけば食い入るようにライヴを楽しんでいた。


Photo by Yuto Fukada

そんな期待も軽々と飛び越え、「自然」でのハイトーンはどこまでも伸びていく。轟音をまとうバラードが並んだ終盤、とりわけ感動的だったのは「雨時雨」。”僕は一人でも大丈夫だから”というくだりを、”僕は一人じゃない”と変えて歌っていたのは、「。」に対する感謝と信頼の表れでだったはず。そして本編最後は、「東京散歩」をグルーヴィにプレイ。角野の流麗なピアノ、映秀。のまくし立てる歌声が冴え渡り、万雷の拍手がZepp Haneda(TOKYO)を包んだ。この無敵モードはアンコールでも継続。鬼気迫るテンションで「脱せ」が演奏されると、会場のボルテージは最高潮に。映秀。は角野の椅子にちょこんと座り、気持ちよさそうに歌っていた。


Photo by Yuto Fukada

この二人以外のメンバーがステージを去り、ラストを飾ったのは「Good-bye Good-night」。東京公演の開催日からちょうど2年前、2019年12月18日にがんで亡くなった父親との別れを題材にした曲である。そのエピソードをMCで語りながら、客席に友人知人の姿を見つけたとき、感情の抑えが効かなくなったのだろう。映秀。は涙を堪えきれなくなり、しばらく言葉を詰まらせた。「映秀。の『。』は僕でもあるし、みなさんでもある。僕一人では今日のステージはやり遂げられなかったと思います。本当にありがとう」と告げると、この夜一番の拍手が沸き起こった。さらに、彼はこう続ける。

「それぞれの大切な人たちに、帰り際でもいいし、明日……いや、明日ではダメだな。今日このあと、『ありがとう』と伝えてほしいなって思います。言えるときに言っておかないと後悔として残るんですよ。僕も今日、歌いながら気づいたんですよね。時間には限りがあるというテーマを、自分が何度も歌詞にしてきたことに。ほとんど無意識なんですけど、きっと父のことがきっかけでそう考えるようになったんだと思います。だから後悔がないように、言えるときに思っていることを伝えてほしいです。ありがとう」





このMCの最中から、会場中がすすり泣く声に包まれていた。無性に切ないピアノに乗せて、憂いを昇華させるように、映秀。は心の奥底から声を放つ。”誕生日を過ぎてても なんの記念日じゃなくてもいいかい? たった五文字だけど恥ずかしいから 音に乗せて言うよ 「ありがとう」”というサビがことさら胸に響く。そして、映秀。は最後にまた「ありがとうー!」と叫ぶと、感極まった表情でステージを後にした。

「今日という日があなたのきっかけになり、記憶に残りますように」と彼は語っていたが、全編ハイライトと言っても過言ではない一部始終は、自分自身にとっても生涯忘れられない経験になったのではないだろうか。「This is EISYU」というツアータイトルが示しているように、今回のライヴは現時点の集大成であり、まだ何色にも染まっていない映秀。の音楽が、新たな未来へと駆け出すための出発点でもある。ここから彼はどこへ向かうのか。なにせまだ19歳、目の前には無限の可能性が広がっているはずだ。



〈セットリスト〉

01 零壱匁
02 反論
03 ⽣命の証明
04 誰より何でしょ ⼈より事よ
05 第弐ボタン
06 失敗は間違いじゃない
07 砂時計
08 諦めた英雄
09 音ノ葉
10 共鏡
11 笑い話
12 喝采
13 ハ茶メ茶オ茶メ
14 自然
15 雨時雨
16 残響
17 東京散歩
EN-1 脱せ
EN-2 Good-bye Good-night

映秀。公式サイト:https://eisyu0317.com/

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