ノー・ロームに聞く、ポスト・パンデミック時代におけるポップ音楽のあり方

ノー・ローム(Photo by Aya Cabauatan)

フィリピン・マニラ出身の24歳、ノー・ローム(No Rome)がデビュー・アルバム『It’s All Smiles』をリリースした。The 1975のマシュー・ヒーリーに見出され、ロンドンを拠点に活動するシンガー/プロデューサーが作り上げたのは、新たなポップソングのフォーミュラの勃興を目の当たりにしているような興奮を感じさせるような一枚だ。

シューゲイザー、サイケポップ、インディR&B、ガラージ、サンプリング・ミュージックなどなど、90年代から2020年代に至る様々なポップ・ミュージックのジャンルを横断し、そのセンチメンタルで夢想的なフィーリングを絶妙に融合させた全10曲(日本盤CDにはボーナストラック2曲追加収録)。

2021年4月にリリースしたチャーリーXCX、The 1975との「Spinning」など最近のコラボレーション曲ではダンス・ポップの曲調も見せていたが、アルバムは全体的にギターサウンドをフィーチャーした方向性を追求している。故郷のマニラで曲作りをし、ロンドンとミネアポリスでのレコーディング、リモートでの制作を経て完成したデビュー作は、国境/ジャンルを超えたオンラインでのクリエイティブの混交が当たり前になりつつある“ポスト・パンデミック”のポップ・ミュージックのモードを象徴する一枚とも言えるだろう。

アルバムの制作背景について、そしてノー・ロームが今の時代をどう見ているかについて、話を聞いた。


Photo by Aya Cabauatan

―アルバム『It’s All Smiles』、素晴らしかったです。長い時間をかけて作ってきた作品だと思いますが、ノー・ロームというアーティストのどんなアイデンティティを表現する1枚になったと感じていますか?

ノー・ローム:まずはとにかくこのアルバムがリリースされることが嬉しい。どんなアイデンティティを表現したかというよりは、この作品を作ることで開放感を得られていることのほうが大きいかもしれないな。自分の頭の中にあった音のアイディアや感情を表に出せたからね。そういう意味で、今回はよりエクスペリメンタルだったと思う。クレイジーなアイディアの数々を使って、クリエイティヴになり、いかに良いサウンドを作れるかいろいろと試してみたから。

―以前に別のインタビューで「2枚のアルバムを作っていて、1枚目はギターメインのロックサウンド、2枚目はダンス・ミュージックのサウンドになる」と語っていました。こうした2つの音楽性を分けてアウトプットしようと考えた理由は?

ノー・ローム:一つのアルバムに全てを詰め込みたくはなかったんだ。二つに分けて、自分なりに音楽をオーガナイズした方がいいと思った。『Crying In The Prettiest Places』(2019年のEP)が機能したのは5曲だけ収録されたショートプロジェクトだったから。その規模で色々なジャンルをミックスしたからよかったけど、あれよりも大きなスケールでどうやったらそれができるかは考えられなかった。20〜25曲くらいのまとまりがない作品を作ろうとは思わなかったんだよね。リスナーも、一度に沢山の情報が一気に与えられるよりも、まとまりのあるもののほうが受け止めやすいだろうし、アルバムをリリースするなら、最初から最後の曲までをまとめて楽しんでほしいし。



―『It’s All Smiles』はギターサウンドが大きくフィーチャーされたアルバムですが、あなたにとって、ギターの音色はどのようなエモーションの象徴となっていますか?

ノー・ローム:ギターは、ものすごくソフトなサウンドからものすごくラウドなサウンドまで、表現できるサウンドが幅広い。エフェクトも使えるし、アンプも使えるし。今回の作品で僕が選んだのは、よりディストーションがかかっていてラウドな方。感情を表現したらそうなったんだ。

―何がそっち側を選ばせたのだと思いますか?

ノー・ローム:デモを作った時点でも既に結構ラウドだった。曲を作っていた時の自分が、色々なことに向き合ってたからだと思う。歌詞の内容も、ああいう歌詞を書きたいと思わせる状況からインスパイアされていたんだと思うし、当時の僕の感情が「僕の話を聞いてくれ!」と熱くなってたんだろうね。少なくとも、その感情は描写したかったと思う。それを表現するためには、何かめちゃくちゃで、アグレッシブなもののほうが自然だったんだ。戦いに入るというか、論ずるというか。その時の感情へのレスポンスが今回の音楽なんだ。

―シューゲイザー〜サイケポップ的な「When She Comes Around」や「Secret Beach」で歌われていることを踏まえると、孤独や逡巡、ある種の傷つきやすい内面性をモチーフにした表現とギターサウンドが結びついているように思いますが、どうでしょう?

ノー・ローム:それは確実にある。歌詞ではそういうテーマに触れたかった。今回は、そういった感情をアーティスティックに音楽で表現したんだ。

Translated by Miho Haraguchi

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