「不平等な社会」がもたらす格差からメンタルヘルスの悪化を考える

所得格差が大きく不平等な国ほど「すべての社会階層で」健康、暴力、学力、犯罪、そしてメンタルヘルスなど多岐にわたって問題が悪化します。また、格差が大きくなると社会的な流動性が低下する傾向があり、違う階層との交流がなくなることで、文化的・社会的・物理的な分断が広がります。押し込められたそれぞれの社会階層の中で、「自分は社会的地位・価値の低い人間だ、あるいはそうならないようにしなければならない」という不安を常に抱えるようになり、それが増大することでますます他人の目を気にするようになり、人間関係がストレスフルなものに変質してしまいます。その結果、社会の中での相互の繋がりと信頼関係が弱まってしまい、それがさらに個々のメンタルに悪影響を及ぼします。そして、そうした他人との比較や社会的地位に対する不安から逃れるために、人はより自己顕示的な行動や消費を増大させていきますが、身体的なこと、趣味、消費の傾向などすべてが序列の評価対象に晒され、経済格差とメディアやSNSがこれを過剰に拡張してしまうため、結局不安が蔓延してしまいます。そうやって、多くの不平等な先進国で心の病が増加し続けています。

こうした不平等な社会の結果として、他人を威圧する行動を指導力と混同し、虚言やごまかしをも良しとするような経営者や指導者が評価されてしまう現象も起きてしまいます。イギリスの心理学者ベリンダ・ボードとカタリナ・フリッツォンが行った39人の企業上級幹部(すべて男性)を対象に行なった研究調査では、上級幹部たちの方が、精神障害や心の病と認定されている患者たちよりも「不誠実・自己中心・ごまかしなどの演技性」と、「共感の欠如・搾取的である自己愛・独裁的傾向を持った強制性」などにおいて勝っているということがわかりました。カリフォルニア大学バークレー校の社会心理学者ポール・ピフの研究では、不平等が拡大した社会では、社会階層の低い人々の方が高い人たちよりも、分かち合い、協力し、他人や社会に恩恵をもたらすような順社会的な行動を行い、道徳的であるという結果が出ました。実験では、上流階級の人々の方がサイコロゲームでごまかしをする比率が高く、キャンディが子どもたちのものだと告げられてもそれを平気で食べてしまう割合も高く出たのです。これは不平等が小さな社会ではあまり目立たず、格差の大きな社会で目立つ現象でした。格差社会では上層の人たちは特権意識や自惚れを持ちやすいこと、過度な競争の中では反倫理的なことを行うのも自分が有利になる手段の一つで、それが自分には許されると思い込んでしまう、などが一因です。一方でこうした歪んだ自己愛は、平等・公正について学ぶ機会を得ることで低減させることができることも研究の結果明らかになっています。

Rolling Stone Japan 編集部

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