ジョン・コルトレーンが今こそ重要な理由とは? 拡散していく「スピリチュアルな共感」

ジョン・コルトレーン(Photo by Francis Wolf ©Mosaic Images)

ジョン・コルトレーンの生涯に迫ったドキュメンタリー映画『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』が12月3日より公開。今秋には「奇跡の発掘」と謳われた未発表ライブ音源『至上の愛 ~ライヴ・イン・シアトル』もリリースされており、生誕95周年を迎えたカリスマに再び注目が集まっている。この偉大なるサックス奏者と今こそ向き合うべき理由とは。音楽ジャーナリスト/ライターの原雅明に解説してもらった。


「承認(Acknowledgement)」、「決意(Resolution)」、「追求(Pursuance)」、「賛美(Psalm)」の4部構成の組曲からなるジョン・コルトレーンの『至上の愛』は、1965年1月にABCパラマウント・レコード傘下のジャズ・レーベル、インパルスからリリースされた。当時、既にジャズ界では大きな注目を集めていたコルトレーンだったが、ジャズのアルバムとしては異例なほどの売上を記録した。ポップスを扱うメジャーのプロモーションと流通システムに乗ったことも大いに後押しとなったが、それだけではない、口コミレヴェルの拡がりと支持を幅広く得た結果だった。



しかし、商業的な成功をもたらした『至上の愛』を、コルトレーンはライヴではほとんど演奏しなかった。映画『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』に登場する音楽史家/ジャーナリストのアシュリー・カーンは、著書『ジョン・コルトレーン「至上の愛」の真実』で、コルトレーンはライヴでは『至上の愛』の演奏を意図的に避けていたのではないか、と指摘する。『至上の愛』という新しい音楽のために新しい演奏場所を求めていた。「音楽が何か別のものになっていると感じる。だから、そんな音楽にふさわしい場所を見つけなればならない」というコルトレーンの言葉にもよく表れている。

そのふさわしい場所の一つが、1965年7月に開催されたフランス南部のリゾート地、アンティーブのジャズ・フェスティヴァルだった。その時の録音は、2015年にリリースされた『至上の愛 ~コンプリート・マスターズ』のボーナス・ディスクとして日の目を見た。これが唯一のライヴ録音として知られていたが、1965年10月にシアトルのジャズクラブで前座を務めたサックス奏者のジョー・ブラジルによって録音された『至上の愛』が発見され、『至上の愛 ~ライヴ・イン・シアトル』として先頃リリースとなった。



この二つのライヴ録音での演奏は、スタジオ録音の『至上の愛』よりテンポが速く、エネルギッシュで自由度も高かった。特に、シアトルでの録音は、組曲の間に4つのインタールード(というタイトルの長いソロ)をはさみ、トータルの演奏時間はスタジオ録音の2倍以上となった。スタジオ録音に参加したマッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズとのクラシック・カルテットに、3人のミュージシャン(ファラオ・サンダース、ドナルド・ギャレット、カルロス・ワード)が加わった。コルトレーンとサンダースはパーカッションも担当し、ポリリズミックで反復性のある演奏を強化した。また、サックスのフリーキーで荒々しいトーンの持続はドローンの役割も果たした。スタジオ録音より生々しく、躍動感があり、この音楽が、ゴスペルともインドの古典音楽とも繋がっていることを、よりはっきりと示してもいた。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE