スネイル・メイルの真実 USインディーの若き主役が語る「挫折と再起」

スネイル・メイル、2021年10月撮影(Photo by Josefina Santos for Rolling Stone, Hair and makeup by Kento Utsubo)

19歳にしてインディーロックのスターとなった、スネイル・メイルのリンジー・ジョーダン。そこから3年後、リハビリを経て感情的に安定した土台を築き、彼女は新たな傑作『Valentine』と共に帰ってきた。

「あらたいへん、ごめんなさい」とリンジー・ジョーダン(22歳)は、マンハッタンにあるフォート・トライオン・パークの落ち葉を踏みしめながら、30分遅れで待ち合わせ場所のクロイスター美術館の前に現れた。「セラピーから戻ったばかりで、『家から出る前におしっこへ行っておこうかな、そうしないと途中でパンツが……』なんて考えていたの」

スネイル・メイルとして活動するリンジーは、こぎれいなディープインディゴのジーンズを履いていたが、膝のあたりにコーヒーをこぼしてしまい、立ち止まって水をかけた。ラベンダーカラーのセーターを着た彼女は、黒のバックパックを手に提げて、白と茶のセリーヌのローファーを履いている。校外学習に出た中学生にしてはファッショナブル過ぎるといった感じの格好だった。母親がメリーランドで経営する下着ショップから入手したレースのマスクも、美術館の警備員から注目を浴びた。「自分でも理由がわからないけれど、素敵な服を選ぶのが楽しくて病みつきになる」と彼女は言う。「究極の万能薬ね」

最近のリンジーは、写真撮影やミュージックビデオ制作の際にスタイリストと協力し、彼女の想いが正確に伝わるような雰囲気作りを心がけている。ニューアルバム『Valentine』のタイトル曲のミュージックビデオが、典型的な例だ。失恋と裏切りに怒り狂ったロックシンガーが、すさまじいパワーを歌にぶつけている。ビデオの中の彼女はリージェンシースタイルのスーツを着て、元恋人の新しい相手を斧で惨殺した後で、ケーキを口いっぱいに頬張る。「歌の激しさにマッチした映像にしたかった」とリンジーは説明する。「あんな格好で歩き回れて、本当に楽しかったな」



『Valentine』に収録された全10曲は、最初から最後まで激しさが持続している。アルバムは2021年11月にマタドールからリリースされた。同レーベルとは、彼女が18歳の誕生日を迎えた頃に契約している。リンジーの楽曲は、20代前半の感受性の鋭い人間のみが持つ、世の中に対する悲観や傷心のオンパレードだ。「Headlock」では“いつからあの娘と会い始めたの?/ついに誰かに飼い慣らされてしまったのね”と静かな闘志を燃やし、「Forever (Sailing)」では“あなたは彼女を家まで送っている/こんな妄想は迷惑かしら?”とシルキーに歌っている。

『Valentine』は失恋をテーマにしたアルバムというよりも、特に2018年のヒットアルバム『Lush』以降、自分を見失いそうになったリンジー自身を描いた作品と言える。心に突き刺さるほどリアルな心情を描いた「Heat Wave」や「Pristine」が収録された『Lush』は、同性愛者のアイコンとして急成長中の天才インディーロッカーの名を、全米中に広げた。そこから3年に及ぶツアーの後で、リンジーは新しい曲が書けずに行き詰まりを感じていた。「自分がとても孤立している気がした」と、中世の中庭を再現した公園のベンチに腰掛けたリンジーが語る。「周りの誰もがどんどん作品を出していくのを見ながら、不安になっていった。話し合うべき問題は山ほどあったけれど、誰にも助けを求められなかった」という。

Translated by Smokva Tokyo

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