ザ・ビートルズ解散劇の裏側 メンバー4人の証言と映画『Get Back』が伝える新発見

Photo by Ethan A. Russell/ (C) Apple Corps Ltd.


ルーフトップ・コンサートまでの道のり

1968年の大混乱に、一筋の明るい光が射した。「Hey Jude」だ。ジョンと別居中の妻シンシアと息子ジュリアンのもとを訪れたポールが、2人の心痛に思いを寄せて作った曲だった。ポールがシンシアに贈った1本の赤いバラは、彼女の心に一生刻まれた。当時5歳だったジュリアンのために作られた「Hey Jude」は、ビートルズ最大のヒット曲になった。BBCの番組に出演したビートルズは、ピアノを囲んだファンの前で同曲を披露した。「ベター、ベター、ベター…」とクライマックスで盛り上がる彼らが生の観客の前で歌うのは、数年振りのことだった。ゲット・バック・プロジェクトは、自分たちを再認識し、同じテレビスタジオで同じ監督のマイケル・リンゼイ=ホッグが、かつての暖かい雰囲気を再現するための試みだった。

しかし、セッションは最初からつまずいた。夜明けと共にメンバーを迎える車が手配されたが、誰一人として朝に強いメンバーはいなかった。ジョージは後に、「朝8時に起きてギターを持たねばならなかった」と当時の怒りを思い返す。一方でジョンとヨーコは麻薬に溺れていた。ビートルズは、自分たち専用のクラブハウスであるかのように24時間騒々しくやっていたアビイ・ロード・スタジオではなく、カメラに取り囲まれたトゥイッケナム撮影所へ閉じ込められた。笑いもあったが、激しいぶつかり合いもあった。「トーストとお茶で朝食をとりながら毎朝9時頃になると、当時の恐怖が蘇ってくるんだ」とポールは振り返る。

メンバーは、素晴らしい曲を持ち寄った。初日にジョンは「Don’t Let Me Down」と「Dig a Pony」を、ジョージは「All Things Must Pass」を持ち込んだ。ポールはジョンの「Everybody Had a Hard Year」を、自身の「I’ve Got a Feeling」に取り込んだ。「Get Back」は、パキスタン移民を擁護する政治的なメッセージを込めた「Commonwealth Song」から始まった。当時の英国では、人種差別主義的な政治家のイーノック・パウエルが提唱する反移民運動がホットな話題となっていた。ポールは『ホワイト・アルバム』の中で最も政治色が強く、西インド諸島からの移民家族の生活を歌った曲「Ob-La-Di, Ob-La-Da」の中でも、移民問題について取り上げている。セッションでは、後に『Abbey Road』に収録される「Something」「Her Majesty」「Oh! Darling」にもトライしている。

しかし始まってからわずか数日で、ポールとジョージが、あるギターパートを巡って口論を始める。ポールが「僕がいつも君を邪魔しているようだ」と皮肉ると、ジョージは「君の思う通りに弾くよ。僕に弾いて欲しくなければ、弾かない。君を満足させるためなら僕は何でもするよ」と自嘲した。

ロックスター同士の言い争いとしては控えめな方だったが、二人はカメラの前でヒートアップしていく。翌日ジョージは「ライブではもう僕の曲を演奏したくない。台無しになってしまうからね。何だか妥協したもののように聞こえるのさ」と言い、「僕らは別々にやった方がいいんじゃないか」と続ける。ポールは「前回のミーティングでも言った通りさ。その日は近い」とつぶやいた。



セッションの場をアップルへ移すとすぐに、彼らの雰囲気も明るくなった。キーボーディストとして迎えたビリー・プレストンに、バンドの沈静効果があったようだ。(かつて『ホワイト・アルバム』のレコーディングにエリック・クラプトンを呼んだ時、彼らはゲストの前で礼儀正しくすることを学んだ。)プレストンはまず、「Don’t Let Me Down」に加わった。ジョンは牧師の説教風に“今日の午後に、夢を見たんだ!”と叫ぶ。プレストンのキーボード・ソロの後でジョンは、「僕が“行って”と言えば、彼はその通りに弾いてくれる。ビル、君は僕らを乗せてくれる!」と狂喜した。ジョージも「もう何日も何週間もやっていて、行き詰まっていた」と言う。ジョンとジョージは、プレストンをビートルズの正式メンバーに加入させようと働きかけた。しかしポールが首を縦に振らなかった。「4人でもう十分最悪だ」

メンバーは、プロジェクトの着地点について延々と話し合った。1月18日に予定されていたテレビの生出演に間に合わないことは、彼らも自覚していた。では新曲をどこで披露するか? 教会や病院か、フェリーの船上か? ジョンは「亡命してもいいとさえ思うようになった」と鼻で笑う。最終的な答えは、彼らの上にあった。つまり屋根の上だ。ルーフトップ・コンサートは、彼らにとって約2年振りのライブ・パフォーマンスだった。誰も寒さが厳しくなるとは予想していなかった。だからジョンとリンゴは、女物の冬用コートを羽織って演奏している。「I’ve Got a Feeling」の最後の瞬間のサウンドには、ビートルズ自身も驚き、ジョンは思わず「ファック、イェイ!」と叫んだ。

今までのようにビートルズは、前進しようとした。ジョンは、新たな人物との出会いに胸を躍らせていた。実際にジョンは自分のビジネスに関する全てを、よそ者の米国人に託す契約を交わした。初対面からわずか数時間という衝動的な行動だった。ジョンは、新たなマネージャーとなるアレン・クラインを他のメンバーに引き合わせるのが待ち遠しかった。

【後編を読む】ザ・ビートルズ解散は必然だったのか? 崩壊寸前のバンドを巡るストーリー


From Rolling Stone US.




©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

ドキュメンタリー作品『ザ・ビートルズ:Get Back』
■監督:ピーター・ジャクソン
■出演:ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター
11月25日(木)・26日(金)・27日(土)
ディズニープラスにて全3話連続見放題で独占配信スタート
公式サイト:https://disneyplus.disney.co.jp/program/thebeatles.html


公式写真集 『ザ・ビートルズ:Get Back』 日本語版
ページ数:240ページ
サイズ:B4変型判(302mm x 254mm)
ハードカヴァー仕様(上製本)
詳細:https://www.shinko-music.co.jp/info/20210129/


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『レット・イット・ビー』スペシャル・エディション
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ユニバーサル・ミュージック公式ページ:https://sp.universal-music.co.jp/beatles/

Translated by Smokva Tokyo

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