ブルーノ・マーズとA・パークが語るシルク・ソニックの絆、ソウルへの愛と執念

古のソウルを再創造するために
二人がこだわった研究と与太話

10年以上も前の型式のキャデラックCTSが、スタジオ脇の小道に駐まっている。「4日前に洗ったばかりなんだ」ブルーノは誇らしげに言う。ある意味、このクルマが音楽面での彼の自信の源にもっとも近しい存在となった。彼がミックスを手がけた2010年の『Doo-Wops & Hooligans』以降のどのアルバムも、このキャディの車内で耳を傾け、彼が最適だと判断する、ある種の現実社会のシナリオの中に置いてみて、感覚的にピンときたものだった。派手に改造したこのアメリカ製のセダンは、古いのでCDプレイヤーがついているのだ。

シルク・ソニックが、このキャディのおかげで気づかせてもらったことのひとつが、アンダーソン曰く「そう、俺たちの演奏には力が入りすぎているんだ」。二人が狙っていた 60~70年代のソウルやファンクの雰囲気を再創造するため、ブルーノの説明によれば、二人とブルーノの長年のエンジニア、チャールズ・モニーズは「リサーチをおこない」、「最適なものを集めた。アンディ(アンダーソン・パーク)のドラムスキンに至るまで。今回のアルバムで初めて気づかされたのは、適正なギターピックの重要性であり、ゲージを使った適正な弦高だった。すべて科学に裏打ちされたようなものだった」

どんな機材を集めるべきか(年季の入ったセッションマンに相談したり、昔のドラム専門誌を読んだりして)考えたあとに、二人が焦点を絞ったのは、昔ながらの演奏スタイルに倣い、それらをその時代に行われていたやり方で正確にレコーディングすることだった。マイクは1、2本だけで、ミュージシャンをまとめて同じひとつの部屋に入れて、一度に演奏してもらう。アンダーソンは言う。「かつての演奏者は相当根気強く演奏していた。俺たちが聴いて育った音楽は、重いドラムに、ベースはぶんぶん鳴っていた。そこで、楽器を全部ひとところに集めてみたけれど、『どうしてうまくいかないの』という状態が続いた。なぜなら、俺たちはやたらとデカい音を出していたからだった」

「Leave The Door Open」のブリッジの話になると、ブルーノ曰く「あれはアンディの演奏だ。彼はグルーヴの展開をしっかり把握しているけれど、俺は理由があって叫び続けた。『うわ、本が降ってきたみたいな音だ!』って。『音量を下げて』と言うつもりでね。かつて先輩たちがジャズ演奏家だったころは計算されていた」。「彼らは慎重に演奏していた」とアンダーソンは言う。

ブルーノとアンダーソンは、シルク・ソニックの起源を、 2017年の、とある逸話にまで遡る。この年の欧州ツアーで二人は出会った。「俺は24K Magicツアーのオープニングアクトを任されていた」とアンダーソンは振り返る。「その途中に1週間、俺たちはスタジオに入った」。「速攻で!」とブルーノは言う。二人は、互いに相手を称賛し、気に入ったというだけで、さしたる理由もなくスタジオ入りした。コラボの話といえば、この二人らしい「やり口」のひとつに、楽屋での大切な内輪受けネタ(彼らの言い方では「jibb talk」)をとりだし、そういった冗談を曲にできるか試していた。jibb talkとは、アンダーソンの説明によれば「笑顔付きの戯言」のこと。「俺たちは一日中しゃべったり、小ネタをやったりしている。でも、それはすべて心の底から出てきたものなんだ。なぜなら、俺たちは自分たちの経験や人間関係から曲を書いている。男二人が組んで、愛について語るのは稀だ」

「俺たちは、自分たちを別のなにかだと偽るつもりはない」とブルーノは付け加える。「俺たちの生まれた背景には与太話があったわけだし」

その一例を挙げよう。件の欧州ツアーの初めの頃、アンダーソンとブルーノが言い出したフレーズに“Smoking out the window"がある。これは、ストレスを抱えた空想上の輩が、ものスゴい勢いでタバコをふかして、不安な状況から逃げ出そうとしている、おかしな情景の一部だ。この4つの単語が、お決まりの文句として繰り返されるようになり、ふたりでスタジオに入ったときに、曲のフックとなった。「それが俺たちが初めて一緒に書いたものになった」とブルーノは言う。



二人はその過程を再現する。

ブルーノ(歌う): 「ティファニーで3万5千、4万5千ドル使ってやる」

(二人のユニゾン):「オー! ノー!」

ブルーノ:「彼女のやんちゃな子供たちに、俺の家じゅうを駆けずり回させる、それはまるでチャッキーチーズ」

(二人のユニゾン):「オー! ノー!」

ブルーノ:「俺はUFCで、彼女の元カレと対戦させられ、窮地に追い込まれる、信じられない」

アンダーソン:「どうにでもなれ!」

 「信じられんよ!」とブルーノ。「それでフックがくる。“Smoking out the window”。そして、『きみはなぜ俺にそんな仕打ちをするの? 俺だけのものじゃなかったのか……』」

Translated by Masaaki Kobayashi

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