ディアンジェロ『Voodoo』を支えた鬼才エンジニアが語る、アナログの魔法とBBNGへの共感

ラッセルの青写真となったレコード

―カマシ・ワシントンのケースについても聞かせて下さい。『Heaven And Earth』はLAで最も歴史あるスタジオでもあるElectro-Vox RecordingとHenson Recording Studioで録音されています。両方ともアナログ機材でのテープレコーディングが可能なスタジオです。こういった録音環境もあなたがミックスを手掛けることになった要因だったのでしょうか?

ラッセル:そう思うよ。それに彼はディアンジェロやRHファクターの大ファンでもあるからね。ロイ・ハーグローヴの作品が、私に仕事を依頼してきた大きな理由だったと思う。カマシについては面白い話があるんだ。彼の名前は私もよく耳にしていて、ポスターを見かけたり、周りの人がカマシの話をしていたりしていたから気になっていたんだ。それで、しばらくして彼の音楽を聴いたら、心から感動してしまって「彼と一緒に仕事ができたらいいだろうな」と思うようになった。すると、その1週間後にカマシから「一緒にやりたい」と連絡がきたんだ。すごいよね!(笑)










―『Heaven And Earth』では、どんなところにこだわってミックスを行ったのでしょうか。

ラッセル:彼の曲にはトラックがたくさん入っていた。ドラマーが二人いたり、ベース奏者もマイルス・モーズリーに加えて、サンダーキャットがたまにセッションに参加していていたりした。ホーン奏者も三人いて、曲によってはホーン・セクションの人数を3倍にした曲さえあった。それにクワイアもいたよね。とても濃密に作られていたんだ。それをミックスするのはかなり大変な作業だったよ。そもそもトラックがたくさんあったから、Conway Studioでカマシと一緒にミックス作業する前に、自分のスタジオで事前のミックスを行うことにした。例えばストリングス・セクションのコンピレーションを作ったり、クワイアのトラックをまとめたりして、トラック数をミックスが可能な量にする事前の準備を行ったんだ。セッションによっては200トラックも入っているものもあったからね!(笑)。トラックが多すぎてパソコンがクラッシュしてしまうほどだったよ。だから、実際のミキシング作業に入る前に、トラックをまとめるということをしなければいけなかったんだ。

あの作品で目指したのは、オールドスクールとニュースクールが交差しているカマシ独自のサウンド。でも、私たちは最終的にオールドスクールの方に寄って行ったと思う。普通のジャズのレコードよりもドラムの音を大きくする部分などはあったけど、カマシはサウンドを生々しいものにしたいと考えていたから、仕上がりとしてはナチュラルなサウンドになったと思う。


Zoom取材中のラッセル

―あなたの背後の棚にレコード・コレクションが並んでいるのが見えます。BBNGのメンバーに話を聞いたら、レコードで聴かれることもかなり重視しているみたいでした。そこもあなたにオファーした理由だと思いますが、レコードに適したサウンドにするために意識していることはありますか?

ラッセル:レコードのために行う準備というのは特にないけど、個人的な思いとして、最終的にみんなに聴いてもらいたいフォーマットがレコードだと考えているところはある。自分のミックスの仕方がレコード向きだと自分でもわかっているよ。私は音楽を聴き始めた時から、レコードの音を主に聴いてきたから、レコードというフォーマットのために自然とミキシングしているし、そのやり方を変えたことはない。私は今でも、80年代後半や90年代前半の、レコードが広く売買されていた時代にいるような感覚でミキシングしているんだよ(笑)。

最近は、レコードがクールだと思う人たちがニッチなマーケットを形成している。それは素晴らしいことだと思うね。BBNGもきっと、この世界にストリーミングなんて存在しなくて、みんながレコードを買わなければいけないような状況を望んでいるんじゃないかな(笑)。

―最後に、あなたがエンジニアとして指針にしてきたレコードをいくつか紹介してもらえますか?

ラッセル:もちろん。長年聴き込んできたレコードが、自分にとっての青写真になってきたからね。私が大いに参考にしている作品の一つが、ピンク・フロイドの『Dark Side of the Moon』。サウンドという点において、これより優れた作品は今も昔も存在しないと思っている。フランク・ザッパの『Apostrophe (’)』も傑作だ。レッド・ツェッペリンの『I』『II』『Houses of the Holy』も大事な青写真。ビートルズなら『Sgt. Pepper’s〜』も大事だけど、私は『Abbey Road』が一番好きだ。曲も素晴らしいし、音響の面でも傑作だと思う。私はスティーリー・ダンのファンでもあって、自分のサウンドは『Aja』や『Royal Scam』にもにも強く影響を受けている。とてもクリーンな音だけど、同時に生々しさもある。ジャジーだけどファンクの要素もある。あとはやっぱり、ジミ・ヘンドリックスのアルバム全て。

それから、これは自分からは滅多に挙げなないけど、キング・クリムゾンのギタリストであるロバート・フリップ。彼は天才だ。クリムゾンはダークでプログレッシヴな音楽だけど、彼はソロ・アルバムでアトモスフェリックな音楽やアンビエントな音楽も作っている。ブライアン・イーノもそうだね。自分が受けた影響についてなら延々と語っていられるよ!(笑)。

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Translated by Emi Aoki

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