R.E.M.デビュー40周年、ピーター・バックが語るバンドへの愛着と『New Adventures in Hi-Fi』

R.E.M.、一番左がピーター・バック(Photo by Chris Bilheimer)

メジャー5作目である『New Adventures in Hi-Fi』の25周年記念エディションがリリースされる今年は、R.E.M.がデビューして40年、活動を止めて10年という節目の年でもある。これまでにも周年記念作品が発表されるごと、メンバーは積極的にプロモーションを行なってきたが、今回もそれは同様。メンバー最年長でリーダー的な役割を果たすことも多かったピーター・バック(Gt)の声をお届けする。

80年代のカレッジ・シーンを牽引し、90年代オルタナティヴ・ムーヴメントの立役者のひとりであり、素晴らしい音楽を世に送り出したことはもちろん、特にそのバンドの在り方や音楽との向き合い方において現在のインディ・ポップ・シーンにも大きな影響を与えている彼らのチャレンジが詰まった『New Adventures〜』を今一度振り返るとともに、R.E.M.に対する思いを語ってもらった。


『New Adventures~』からの1stシングル「E-Bow the Letter」にはパティ・スミスがゲスト参加。のちに1998年のチベタン・フリーダム・コンサートなどいくつかの公演で、彼女のパートをトム・ヨーク(レディオヘッド)が担当した。



1988年、ワーナー・ブラザーズに移籍したR.E.M.はメジャー1作目の『Green』と、それに伴うツアーの成功で、広くロック・ファンにその名前が知られることとなった。さらに『Out of Time』(91年)と『Automatic for the People』(92年)では、それまでのギター・ロック・サウンドから、非ロック的な楽器使いやアコースティカルなアプローチでロックの多様性を表現し、結果、アルバム・プロモーションとしてのツアーに出ることなく、どちらも全世界で1500万枚を超える売り上げを記録、米南部の大学街アセンズ出身の4人組をシーンのトップへと導いた。

94年、時はオルタナティヴ/グランジの全盛期。そんなシーンの盛り上がりにも触発され、メジャー4作目となる『Monster』には、かつての彼らが鳴らしたようなダイナミックなギター・ロックが戻った。同作の発表から遡ること5カ月、自ら命を断ったカート・コバーン(ニルヴァーナ)に捧げた「Let Me In」も収録されたが、カートが亡くなった部屋に『Automatic for the People』が流れていたという話を、4人はどんな思いで聞いたのだろうか(当時、特にカートと親しかったマイケル・スタイプはカートとのコラボレーションの話を進めていた)。


「Let Me In」、後述の映画『ロード・ムーヴィー』より。マイク・ミルズはこの曲をパフォーマンスする際、カート・コバーンのギターを使用していた。

そんなオルタナティヴ・ムーヴメントの光と影が交錯する『Monster』を携えて、95年、R.E.M.は5年以上ぶりのツアーに出た。しかも、ツアーには8トラックのレコーディング機材を持ち込み、サウンド・チェックなどの時間を利用して新しいアルバム用の曲をレコーディングしようと企てていた。

「僕らはバンドとしてものすごく成功した。だったら、何かそれまでと全然違うことをしよう、ツアーをしながら、その時経験していることを反映させて、アルバム1枚を作ろうと思ったんだ。時間つぶしというのもあった。あの時のツアーは、僕らが経験した最も長いツアーだったからね」と、ピータ・バックは当時を振り返る。

ところが、だ。95年1月に豪州、日本からスタートしたツアーは、途中3度の中断を余儀なくされた。最初はビル・ベリー(Dr)が脳動脈瘤破裂で手術と入院、次はマイク・ミルズ(Ba)が腸管癒着を起こし、さらにはマイケル・スタイプ(Vo)がヘルニア悪化で緊急帰国&手術、とピーターの言葉を借りれば、まさに「クレイジーなツアー」となった。それでも4人は、11月下旬までの日程をなんとかやり遂げ、しかもその千秋楽となったアトランタでの3夜公演はピーター・ケア監督の手によりドキュメンタリー映画『ロード・ムーヴィー』にまとめられた。そして、満身創痍でツアーを終えた彼らの手もとには、新しいアルバムの“素”が出来上がっていた。

「ツアーが終わった時点でアルバムは8割方、出来上がっていたんだ。だから休みをとる意味がないと思えたんだよ。クリスマスから年明け1月くらいは休みを取ったはずだけどね。クリスマスを家族や子供たちと過ごしたのを覚えている。でも『このままアルバムを完成させてしまおうぜ』という気持ちだった。何をやりたいのか、その思いが自分たちの中で新鮮なうちにやってしまいたかったんだ。レコーディングして、半年のブランクを空けて戻ってきても、そもそも何をしようとしていたのか、記憶すらなくなっていたりする。でも、すぐにスタジオに入って完成させたおかげで、曲は新鮮なものになり得たんだ」


『New Adventures~』からの2ndシングル「Bittersweet Me」

実際にツアーをしながら曲を書くことに、難しさは感じなかったのだろうか。

「それぞれにアイデアを持ち寄り、そこにみんなが手を加えて変えていく、というのが僕らのいつものやり方で、それは変わらなかった。誰かのアイデアがメインになって、まだそこにマイケルの歌詞はないかもしれないけど、みんなでああだこうだと意見を出しあいながら、パーツを加えていく。各自のアイデアが、ツアー中のサウンド・チェックで曲に生まれ変わっていくということだよ」

ならば、ツアーをしながら曲を書き、レコーディングをすることで得られた最大の成果は何だったのだろう。完成したアルバムに現われた成果はもちろんあったろうし、ツアーにも何らかの影響があって不思議はない。

「そのどちらにも成果はあったよ。新曲を演奏することのエキサイトメントは、ツアーを新鮮なものにしてくれた。あれは、僕らがそれまでに作ったどんなアルバムとも違う、余計なものを削ぎ落とした、ストレートなアルバムなんだ。制作された状況から言って、細かい部分にこだわる時間的余裕はなかった。いい意味でラフに作られたレコードで、僕自身はそのことにとても満足しているよ」

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