ローリング・ストーンズ『Tattoo You』を再検証 このアルバムこそ絶頂期だった?

ザ・ローリング・ストーンズ(Photo by Helmut Newton)

名曲「Start Me Up」を収録した、ザ・ローリング・ストーンズ1981年の名作『Tattoo You』(邦題:刺青の男)の40周年エディションが10月22日にリリースされた。オリジナル11曲の最新リマスターに加えて、デラックス盤には未発表曲集「Lost & Found: Rarities」とライブ盤「Still Life: Wembley Stadium 1982」も付属。今回のリイシューを踏まえつつ、2021年の視点で同作を再検証する。

今から40年前の秋、ザ・ローリング・ストーンズがアルバム『Tattoo You』をリリースした。当時のアルバムのクレジット表記が曖昧で不十分だったために、アルバムリリースとツアーがセットになった典型的な作品とは全く異なる、という事実を知る者はほとんどいなかった。1981年の米国ツアーに合わせた新作の制作を求められていたバンドは、ミック・ジャガーとエンジニアのクリス・キムジーが中心となり、過去の未発表作品や不完全なトラックを発掘してヴォーカルや楽器を加え、新作として急きょ仕上げた。1995年のローリングストーン誌のインタビューで、ミック自身も認めている。「お蔵入りしていた大量の未完成トラックを引っ張り出して作った。他のメンバーはほとんど関与できる状態ではなかったからな」

アルバムのオープニングを飾り、長年に渡り愛されてきた歯切れのよい「Start Me Up」は、どう考えてもスタジアムでの演奏を念頭に書かれた作品だ。またソニー・ロリンズのサックスソロをフィーチャーした、ストーンズらしからぬ心に染みる楽曲「Waiting on a Friend」(邦題:友を待つ)は、バンドの名曲のひとつとなった。時と共に影が薄れがちだった『Tattoo You』だが、リリース40周年を記念して豪華なデラックスエディションが用意された。オリジナルのアルバムに加えて、アウトテイク集や、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで1982年に録音されたライブ盤も付属するスペシャルバージョンもある。しかし、ストーンズのアルバムの中で最もスムーズに制作できなかった作品が、なぜ今なお人気を持続しているのだろうか。



『Tattoo You』はストーンズ最後の傑作なのか?

ミックは1995年のインタビューで、「目的や場所や時間に一貫性のないアルバムだ」と語っている。確かにその通りかもしれないが、ノリのよい「Hang Fire」やゴリゴリのブルーズ曲「Black Limousine」(邦題:黒いリムジン)から「Waiting on a Friend」に至るまで、駄作などひとつもない。ところが次作の『Undercover』以降は、そうとも言い切れない。リミックスを担当したボブ・クリアマウンテンの優れた手腕のおかげで、バラバラな断片が自然で一貫した作品に仕上がった。過去の残骸から拾い集めてまとめるのは、至難の技だったろう。

LP盤にノスタルジーを感じる人に最適なアルバム

リリースされた当時のLP盤は、2つのパートに分かれていた。ギターとビートが強調されたA面はロック色が濃く、B面はキーボードを多用したミドルテンポのソフトでエレガントな楽曲が多い。アルバムの曲順はCDの登場から意味を成さなくなり、ストリーミング時代の今は全く消えてしまった。しかし『Tattoo You』は、A面とB面がそれぞれ個性を発揮していた遠い時代を思い出させてくれる。特に「バラード」面は、ストーンズのアルバムの中で最もまとまりと一貫性が感じられる。等身大の愛を表現した「Worried About You」に始まり、スローな「Tops」、幻想的な「Heaven」、「No Use in Crying」(邦題:泣いても無駄)と続き、「Waiting on a Friend」で締め括られるB面は、ミックのファルセットを最大限に(かつ最も真剣に)活かしたひとつのムード作品に仕上がっている。

Translated by Smokva Tokyo

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