ヘヴィメタル/ハードロック伝説 KISS、ガンズ、メタリカ等の知られざる素顔を増田勇一が語る

ヴァン・ヘイレン「都合が悪い時は歌ってごまかすデイヴ」

若いバンドが成功すると「俺が最初に目をつけた」と言いたがる人は多いですが、ジーン・シモンズにもそんなところが。ヴァン・ヘイレンもそうしたバンドのひとつでした。ある日、ジーンはロサンゼルスのクラブに、当時ジョージ・リンチがやっていたバンドを観に行ったんですけど、そのときの前座がヴァン・ヘイレンでした。「なんだ、こいつらは」と興味を持った彼が、「俺が金を工面するからデモをつくれ」と言ったのは有名な話ですけど、ジーンはもしかすると、KISSにエディ・ヴァン・ヘイレンが欲しかったのかもしれませんね。実際、エディを使ってKISSの曲のデモを録ったりしていますし。KISSは74年デビューで、バンドが大きくなったのが75、6年ぐらい。ヴァン・ヘイレンは78年、チープ・トリックは77年にデビューしています。そうやってシーンで頭角を現していくバンドを見ていたジーンの中には、若いバンドに投資したいという気持ちもあったんでしょうね。

ヴァン・ヘイレンとの対面取材ができたのは「5150」のツアーで日本に来たときでした。デイヴィッド・リー・ロスに関しては、ソロ時代にご自宅に行ったこともあります。当時、デイヴのご自宅はカリフォルニアにあって、住所は秘密だったのでパブリシストが家まで連れて行ってくれました。彼の家にはどれだけ歩かせるんだというぐらい広い庭があって、いくつもの建物があって、その中でインタビュー場所として案内されたのはプールサイド。ライオンの口から水が出てくるようなプールで、デイヴは椅子にのけぞって座っていました。彼もすごく聡明な人で、これは大先輩の東郷かおる子さんから聞いたんですが、あのジーン・シモンズがデイヴのことを「あの男はキツネのように賢いやつだ」と言ったそうです。僕からすると「あなたもね!」という感じなんですが、若い時分からデイヴはジーンと太刀打ちできる人物だったんでしょうね。彼の話を聞いてるとまるでトークショーに来たような錯覚に陥るんですよ。

彼はありがちな質問にはあらかじめ決まっていたような回答をするので、僕はこの時に勇気を振り絞りました。彼はそのインタビューのちょっと前に大麻か何かで捕まっていたので、そのことについてインタビューの最後にぶつけてみようと思ったんです。

「これで答えてもらえたらならしめたもの」と。そして、インタビューの最後、意を決してそれとなく聞きました。「ファンは最近、タブロイドでの報道について気にしていると思いますが……」。するとその瞬間、彼は「世の中、いろんなことがあるさ~」みたいなことを歌うように立ち去り、そのままインタビューが終わってしまいました(笑)。 




チープ・トリック「メールアドレスの秘密」

 デイヴ・リー・ロスのようなアーティストには、こちらからも相手が困るような質問をぶつけたくなるんですが、何を聞いてもめげない人もいます。逆に僕が困らされたのがチープ・トリックのリック・ニールセン。ほぼアルバムが出るたびに何らかの形で取材する機会があるんですが、毎回、「おいおい、こないだの計画はどうなったんだ?」と聞いてくるんです。何かというと、彼が日本に来て、数カ月間キャピトル東急に滞在し、日本のバンドをプロデュースするという話なんですが、「元メガデスのギタリストや元MR.BIGのギタリストよりも、俺が日本で活動したほうが面白くないか?」と言うんです。半分冗談なんですけど、半分は本気。そうやって僕らのことをイジって喜ぶタイプの人で、カタカナにすると「イヒヒヒヒ」と笑うんです。でも、こちらがいい質問をすると、「なかなかやるじゃねえか」みたいな反応をくれるので、楽しいし、取材しがいのある人ですね。

チープ・トリックの取材体験談としてちょっと特別なのは、僕がフリーランスになった直後、『チープ・トリック at 武道館』20周年記念として、98年のゴールデンウィークぐらいにシカゴのメトロというクラブで4日間開催されたライブを取材しに行ったときのことです。その何日目かの昼間に、リックから「お前、明日空いてる? 一緒に野球観に行かない?」と誘われました。というのも、リグレー・フィールドでのシカゴ・カブスの試合に彼らが応援に行き、「テイク・ミー・アウト・トゥー・ザ・ボールゲーム」を歌うことになっていたんです。それで僕もメンバーと同じボックス席で試合を観戦することになりました。

ロビン・ザンダーは奥さんと子供を連れてきて、トム・ピーターソンも彼女と一緒。リックだけちゃんとユニホームを着ていました。そんな彼らの姿を見つけた地元の子供たちが「わ、チープ・トリックだー!」みたいな、ちょっとイジるような言い方をしてくるんですよ。地元でリックは「おもしろオジサン」という認識なんだなと思いましたね。

リックが口癖のように言っているのは、「武道館がチープ・トリックを有名にして、チープ・トリックが武道館を有名にした」という言葉で、ここだけの話、彼のメールアドレスのひとつにも“budokan”という言葉が入っているんです。それぐらい彼にとって大切なワードなんでしょうね。



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