チャイルドシートで拉致、性的人身売買業者「陰謀論」の動画が拡散されるまで

恐怖を売りにしたコンテンツはあっという間に拡散される

パーカーさんが投稿でシェアしたような性的人身売買に関する露骨な誤情報は、いまやTikTokの隅々まで広がっている問題だ。TikTokのアルゴリズムは次第に、高いエンゲージメントを稼ぐ確率の高いセンセーショナルなコンテンツを宣伝する傾向にある。例えば去年の夏には、性的人身売買業者がWayfair社の高級家具を隠れ蓑にして子供を密輸しているという陰謀論があったが、最初に拡散したのはTikTokだった。ごく最近では4月、人身売買業者が全米のスーパーマーケットTargetの店舗で被害者を物色しているという噂が同アプリで話題になった。「パニックを引き起こす動画はエンゲージメントが非常に高いんです」。TikTokの誤情報を研究するアビー・リチャーズ氏はかつてローリングストーン誌にこう語った。「誰かが『大変だ、こういうことが自分の身に起きた』と言うのを見ただけでたちまち広がります。恐怖を売りにしたコンテンツはあっという間に拡散します」

こうしたコンテンツはアメリカの性的人身売買の現実を見えにくくする。見知らぬ他人が暗闇の陰に隠れて、無防備な被害者を拉致しようと待ち構えるということはめったにない。性的人身売買の発生件数に関して信頼できるデータはほとんどないものの、Polarisをはじめとする反人身売買団体によれば、被害者の大多数は権利を奪われた人々――例えばホームレスのLGBTQの若者や規制薬物中毒者など、すでに仲介者を知っているケースがほとんどだ。

チャイルドシートのデマのような話題が拡散すると、実際の人身売買の被害者に重大な害が及ぶこともある、とカッター氏は言う。「ソーシャルメディア上に間違ったセンセーショナルな話が流れ、それが人身売買に関する話題の主流になれば、実際に人身売買の経験者はそうした話に自分たちを重ね合わせることができなくなることもあり得ます」と彼女は言い、こうした拡散動画によって反人身売買団体のリソースが逼迫し、かつ実際の犠牲者が助けを求めにくくなっている、とも付け加えた。

ローリングストーン誌はTikTokにコメント取材を求めたが、TikTokから返答はなかった。だが問題の動画が今後削除されようとされまいと、残念ながらこうした拡散動画の実情――今回の場合は、2人の客が新品を買って古いチャイルドシートを捨てただけ――は、見知らぬ男が潜伏して駐車場で無警戒の女性をさらう、という話よりもずっと面白みに欠ける。

「ごみを捨てるのはよくないことですよ」とディーンさんも言う。「大そうな陰謀論をでっち上げるより、面倒くさがりな人に腹を立てたらどうですか?」

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from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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