チャイルドシートで拉致、性的人身売買業者「陰謀論」の動画が拡散されるまで

イタリア、シシリア島のカターニア(Photo by Getty Images)

「このようなチャイルドシートを突然見かけたことはありませんか?」。TikTokの動画で女性がこう尋ねる。彼女が指さす先には、駐車場に打ち捨てられたチャイルドシートのFacebook投稿写真。「これはごく普通のチャイルドシートじゃありません……実は罠なんです」。これは無防備な被害者を拉致して性の奴隷とするために、性的人身売買業者がおとりとして置いた「人身売買用のチャイルドシート」なのだ、と女性は続けた。

【画像を観る】「性奴隷」にされた自己啓発団体の被害者たち

「もし無作為に置かれたチャイルドシートを見かけたら、電話してください。ホットラインに電話して知らせてください」とその女性は締めくくり、性的人身売買ホットラインの番号を示した。「チャイルドシートをこんな風に放置する親なんて1人もいません。相手はあなたがチャイルドシートに近づいて辺りを見回している間に、素早くあなたを拉致するつもりです」。その女性は次の動画で、自分が住む町の歩道でも同じチャイルドシートを見かけたと主張したが、2本目の動画に映るチャイルドシートは最初の投稿写真に写っていたものとは違っていた。

動画を投稿した女性は@princessbellesunflowerことペイジ・マリー・パーカーさん。12万2000人のフォロワーを抱えるTikTokユーザーで、ソーシャルメディア上でタロット占いを提供する自称「スピリチュアル・ガーデナー」だ。人身売買の専門家という肩書がないにもかかわらず、彼女の動画は大々的に拡散し、投稿されてからたった1日で1220万回も閲覧された。

パーカーさんはローリングストーン誌に宛てたDMで、動画を投稿したきっかけは友人がFacebookにあげた「チャイルドシートの罠」という投稿だったと語った。ドライブ中に2つのチャイルドシートが歩道に捨てられているのを見るまでは、大して深く考えていなかったという。彼女はTikTok動画を投稿する前に、人身売買ホットラインに連絡した。「世間が気づいているかどうか確かめたかったんです」と本人。

10月12日、ウィルクスボロ警察はチャイルドシートの噂に関する投稿をFavebookに公表した。そこにはパーカーさんの動画にあった写真も載っていた。だが、人身売買業者が写真のチャイルドシートを使ったとは一言も書いていない――実際のところ内容は正反対だった。「添付された写真はFacebookに投稿され、ウィルクスボロのWal-Martであった出来事ではないかとの噂が広まりました」と、10月12日付の投稿には書かれている。「問題の投稿には、人身売買業者が犠牲者を誘い込むために駐車場にチャイルドシートを放置した、と言及されています。ウィルクスボロ警察はこの件を調査し、チャイルドシートが駐車場に放置されていた状況を突き止めました」

警察の投稿によれば、Wal-Martの顧客2名が新しいチャイルドシートを購入して車に装着し、古いほうを駐車場に捨てただけだったという。「何らかの犯罪活動に関与しているようすは全くありませんでした」と締めくくられていた。パーカーさんの動画が26万4000人以上にシェアされていたのに対し、警察の投稿をシェアしたのはわずか255人だった。

Translated by Akiko Kato

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